序章
ナショナリズムは日常生活の中にある「政治的文化の最も基本的要素のひとつ」であり、ナショナル・アイデンティティの感覚に関連している。しかし、ブルース・ストロナチが論じているように、どのような種類のナショナリズムが論じられているかを明らかにしなければ、その言葉の意味は不明瞭になってしまう。本レポートでは、明治大正時代の史論家でありジャーナリストであった山路愛山の生涯と思想を検討し、彼のような知識人に「ナショナリスト」というラベルを単純に貼るのは適切ではないことを指摘したい。なぜなら、このようなラベル貼りは、戦前の自国中心史観に対抗した社会史研究や自由主義思想の潮流を見えなくするからである。そして、本レポートでは、山路愛山は戦前の日本の自由主義思想家の一人として、また、自国中心史観に対抗してマイノリティを含む民衆の役割を重視した社会史研究の先駆者として取り上げたいと思う 。
山路愛山の生涯
明治大正時代に人気のあったジャーナリスト・史論家山路愛山の業績は研究者を除けば今日ではほとんど知られていない。彼は民友社の記者、『信濃毎日新聞』の主筆、『独立評論』の責任者として働き、歴史、文学、政治、教育、経済、社会、文化、宗教などの様々な分野に関する多数の著書、論文を発表した 。一九一一年の雑誌『文章世界』の読者による人気投票で、森鴎外が「翻訳家」として最高の一五一九0票、島崎藤村が「小説家」として最高の七五六七票を獲得し、夏目漱石が四九七票だった時に、愛山は「史論家」として最高の一四六八七票を得ていた 。民友社の創立者徳富蘇峰は愛山の周囲に「少なからざる親友」と「多くの随喜者」がいたのは、彼が赤心のある「好男児」だったからだと回想している。
目次
序章
山路愛山の生涯
山路愛山の思想―
社会進歩観
帝国主義論
山路愛山の文学観
山路愛山とキリスト教
山路愛山の遺産
序章
ナショナリズムは日常生活の中にある「政治的文化の最も基本的要素のひとつ」であり、ナショナル・アイデンティティの感覚に関連している。しかし、ブルース・ストロナチが論じているように、どのような種類のナショナリズムが論じられているかを明らかにしなければ、その言葉の意味は不明瞭になってしまう。本レポートでは、明治大正時代の史論家でありジャーナリストであった山路愛山の生涯と思想を検討し、彼のような知識人に「ナショナリスト」というラベルを単純に貼るのは適切ではないことを指摘したい。なぜなら、このようなラベル貼りは、戦前の自国中心史観に対抗した社会史研究や自由主義思想の潮流を見えなくするからである。そして、本レポートでは、山路愛山は戦前の日本の自由主義思想家の一人として、また、自国中心史観に対抗してマイノリティを含む民衆の役割を重視した社会史研究の先駆者として取り上げたいと思う 。
山路愛山の生涯
明治大正時代に人気のあったジャーナリスト・史論家山路愛山の業績は研究者を...