近年、高齢化社会に伴い、骨粗鬆症を背景に発生する大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ・大腿骨のつけ根の骨)骨折は、増加の一途をたどり、最も発生頻度の高い骨折の一つであります。
本骨折は、脳血管障害に次ぐ「寝たきり」の第2 位の原因であり、高齢者のquality of lif e(QOL )を著しく阻害します。そのため、患者や家族だけの問題にとどまらず、医療費の高騰、介護体制の整備など大きな社会問題となっています。
高齢者においては、痴呆、褥瘡(とこずれ)、肺炎、消化器障害(胃潰瘍、腸閉塞)、血栓性静脈炎、肺梗塞などの併発症を予防するため、早期に手術を行い、できるだけ早く離床させることが望まれます。
しかし、高齢者では予備能力が低く、受傷前よりすでに老人性痴呆、高血圧、糖尿病、肺疾患、心疾患など多様且つ重複した合併症を有していることが多く、手術により合併症を悪化させる可能性もあり、このジレンマのなかで治療法の選択に迫られることになります。
術前に十分な全身状態の評価を行い、呼吸不全、心不全など致命的な合併症を有する症例以外は、可能な限り早期に手術を行い、早く離床させることが重要です。なぜなら、高齢者は長期臥床により新たな合併症を併発し、悪循環に陥ることがしばしば見られ、死亡する確率が高くなるからです。保存的治療(手術をしない方法)が選択される余地はほとんどありません。手術前後には、合併症に対して専門医と綿密に連繋し、慎重に治療に当たることが肝要です。
老年学レポート
1.問題の背景
近年、高齢化社会に伴い、骨粗鬆症を背景に発生する大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ・大腿骨のつけ根の骨)骨折は、増加の一途をたどり、最も発生頻度の高い骨折の一つであります。
本骨折は、脳血管障害に次ぐ「寝たきり」の第2 位の原因であり、高齢者のquality of lif e(QOL )を著しく阻害します。そのため、患者や家族だけの問題にとどまらず、医療費の高騰、介護体制の整備など大きな社会問題となっています。
2.構造と機能
脚の骨(太ももの骨=大腿骨)が骨盤につながる部位、太ももの骨(大腿骨)の上端を骨頭といいます。骨頭は骨盤のくぼみにはまり込み、股関節を形作っています。大腿骨頚部とは、丸い骨頭の下の部分をいいます。
3.原因
本骨折は、高齢に伴う運動機能の低下に骨粗鬆症が加わり、軽微な外傷で発生する厄介な骨折です。治癒後も転倒を繰り返す傾向があり、更なる骨折を誘発します。
4.病態と診断
痛み(自発痛・運動痛など) 脹れ 機能障害(受傷後直ちに起立・歩行が不可能) 下肢長が短縮する 下肢が外旋位(爪先が外側を向く)をとる 高齢者に多い
5.治療
高齢者...