環境微生物学レポート③
2010/05/31提出
微生物を捉える様々な手法として、数多くの疾患の原因であるウイルスを検出・同定する方法について調べた。細菌やウイルスを捉える方法としては授業で講義を受けた至適条件での寒天培地による平板培養法やPCRが幅広く用いられているが、以下にあげる二つの方法も病原体としてのウイルスの検出および同定に有用であり広く用いられている。
病変部や切除断片から迅速に原因ウイルスを診断する一つの方法として、イムノクロマトグラフィーがある。これはウイルス抗原を認識する抗ウイルス抗体をあらかじめ固相化させた薄層のろ紙を用いて行う。ろ紙には順に検査ラインと対照ラインがあり、前者には抗ウイルス抗体が固相化されているのに対して後者には抗標識抗体が固相化されている。ろ紙の検体滴下部に検体を滴下すると検体は薄層を右に移動し始める。可溶化したウイルス抗原はまず、固相化していない標識された可溶性抗ウイルス抗体と結合し、さらに右に移動して、検査ライン上で抗ウイルス抗体に補足されて標識の集合体が生じることで可視化される。また、対照ライン上まで標識抗ウイルス抗体が移動してくると、抗標識抗体によってこれが補足され検査ライン上での反応と同様に可視化できる。この対象ラインは滴下した検体の移動を確認する目的で存在している。標識の原理や種類によって異なるが、1mL検体中105以上のウイルス粒子が検出に必要であるとされている。このイムノクロマトグラフィーは特別な装置が不要であり、15~30分以内に判定可能である点で汎用性が高く、臨床の場で広く用いられている。
ウイルスによる病気の診断には、顕微鏡での観察や上で述べたイムノクロマトグラフィーのように直接的にウイルスを検出する手法を用いるべきであるが、ウイルスの宿主内での増殖速度などによっては、直接的に検出できない場合がある。このような場合には宿主の免疫応答に基づいて診断する手法がとられる。具体的には、液性免疫として感染したウイルスに対する抗体価測定という血清学的検査が一般に行われている。抗ウイルス抗体の種類や量を解析することで、ウイルス感染の既往歴や潜在ウイルスの再活性化を確かめることができるというものである。この抗ウイルス抗体の検出において最も汎用されているのが酵素免疫測定法(ELISA)である。一般原理としては、まず、目的タンパク質に対する抗体をポリスチレンなどの不活性容器の内面に固着させ、目的タンパク質の溶液を注入し、抗体に結合したたんぱく質以外を洗い流す。次に、生じた抗体抗原複合体に標識酵素で標識した二次抗体を結合させて、定量的解析を行うというものである。臨床においてウイルスの検出に用いる場合には、固着させるのは抗体ではなく固相化ウイルス抗原であり、ここに抗ウイルス抗体を含む宿主の血しょうを滴下すると抗体抗原複合体を形成する。ELISAは抗体の抗原特異性により少量のタンパク質でも検出・定量できるため、研究や臨床検査において幅広く用いられている。
<参考>
平松啓一ら編、標準微生物学第10版、医学書院、2009、662p
田宮信雄ら訳、ヴォート生化学(上)第三版、東京化学同人、2005、657p