基礎実習レポート
1-12 コンピューターグラフィックスによる
薬物―受容体の相互作用様式の検討
実験実施 2010/5/26
提出2010/06/02
Ⅰ.目的
分子力場計算を用いて薬剤分子のコンフォメーション解析を行い、分子設計の基礎となる分子のコンフォメーションについて理解する。また、コンピューターグラフィックスを利用して、薬剤分子の標的となるタンパク質の3次元立体構造を把握し、それらの機能や薬物との相互作用を原子レベルで理解する。
Ⅱ.原理
テキストに準ずる。
Ⅲ.実験と結果
配布されたマニュアルに従って以下の操作を行った。
<実験操作1>
Deoxycytidine分子の組み立てを行った。
コンフォメーション計算を行った。
コンフォメーション計算の結果、最安定コンフォーマーのエネルギー値は
-55.8066528(kcal/mol)であった。またこの時のDeoxycytidineのグリコシド結合のねじれ角は-165.548840であった。
結果の考察を行った。
<実験操作2>
HIVプロテアーゼ分子を表示した。
二次構造を構成する残基を調べ、HIVプロテアーゼのサブユニットの二次構造図を作成した。結果を【図1】として以下に示す。
【図1】HIVプロテアーゼサブユニットの二次構造図
ただし、図において赤字で示した数字は10残基ごとの残基番号である。なお、10=Leu,20=Lys,30=Asp,40=Gly,50=Ile,60=Asp,70=Lys,80=Thr,90=Leuであった。図形矢印で示したものがβシート構造、長方形で示したものがαへリックス構造である。HIVプロテアーゼのサブユニットには単一のαへリックス構造と九つのβシート構造が存在した。β7とβ6,β1とβ2,β4とβ5は逆平行βシート構造であるのに対して、β3とβ8は逆平行βシート構造であった。またβ5の一部とβ8は隣り合っており、逆平行βシート構造を形成していると判断した。
サブユニットの配置を調べた。
二量体であるHIVプロテアーゼ分子の対称性を確認し、HIVプロテアーゼの2本のペプチド鎖の間に形成される水素結合の位置(相互作用部位)を調べた。以下に相互作用部位のうち5つを示す。ただし、HIVプロテアーゼの二つのサブユニットのうち一つをA、もう一方をBとし、続けて残基番号と塩基の名称を示した。
27,A,Glyと25,B,Asp
24,A,Leuと26,B,Thr
50,A.Ileと51,B,Gly
98,A,Asn,と96,B,Thr
50,A,Aspと8,B,Arg
阻害剤とHIVプロテアーゼの相互作用を調べた。
阻害剤とHIVプロテアーゼの相互作用部位を阻害剤の分子式構造に記入した。結果は、【図2】として以下に示す。阻害剤とHIVプロテアーゼの間の相互作用に水分子が関与している部分があった。この水分子は阻害剤のヒドロキシ基や酸素原子と水素結合を形成すると考えられることから、阻害剤がHIVプロテアーゼと立体的に相互作用し、その薬効を発現するために必須であると推測する。
【図2】HIVプロテアーゼと阻害剤の相互作用部位
Ⅳ.検討・考察
<検討事項>
1) 結果に示した。
2) コンフォーマー間でエネルギー差が生じる原因としては、大きく分けて二つあると考える。一つは酸素原子と酸素原子など、比較的大きい原子同士の反発によるもので、もうひとつは水素結合の形成である。実験操作1の結果において、安定なDeoxycytidineのコンフォーマーのグリコシド結合のねじれ角はほとんどが-160~-140前後の値となっていた。これはDeoxycytidineの2位炭素に結合する酸素原子とデオキシリボースの酸素原子が-anti periplanarの関係にある状態である。実験中に確認した-anti peliplanar分子ではDeoxycytidineの2位炭素に結合する酸素原子とデオキシリボースの酸素原子との間の立体的な込み合いが他のコンフォーマーに比べて少ないことがコンピューターグラフィックスで確認できた。-anti periplanarのコンフォーマーでは先にあげた酸素原子同士の反発が最も少ないため安定であると判断できる。一方、実験中に確認した不安定なコンフォーマーのほとんどはグリコシド結合のねじれ角が+40~+70前後であった。これはDeoxycytidineの2位炭素に結合する酸素原子とデオキシリボースの酸素原子が+syn periplanarまたは+syn clinalの関係にある状態である。synの関係にある場合には、Deoxycytidineの2位炭素に結合する酸素原子とデオキシリボースの酸素原子によって、大きな原子が込み合った不安定な配座になると考えられる。ただし、エネルギー的には一部の-anti periplanarよりも安定であるが+syn periplanarの配座をとるコンフォーマーがあった。これは5´位のヒドロキシ基の水素原子と2位に結合している酸素原子が水素結合を形成して安定化するためだと考えられる。
Ⅴ.参考
湯川泰秀ら監訳、パイン有機化学Ⅰ第五版、廣川書店、1989、570p
田宮信雄ら訳、ヴォート生化学(上)第三版、東京化学同人、2005、657p
相本三郎・赤路健一著、生体分子の科学、化学同人、2002、158p
4