被告人Aはかねて窃盗の被疑事実による逮捕状が発付されていたところ、警察官3名は、逮捕状を携行しないでA方に赴いた。警察官等は、A方前でAを発見して任意同行を求めたところ、Aは逃走したが、まもなく逮捕された。その後、Aは警察署に連行された直後に、逮捕状を提示された。逮捕状には、逮捕現場において逮捕状を提示してAを逮捕した旨のP警察官作成名義の記載があり、また、Pは同日づけでこれと同旨の記載のある捜査報告書を作成した。Aは、警察署内で任意の採尿に応じたが、その際、Aに強制が加えられることはなかった。尿鑑定の結果、覚せい剤成分が検出された。公判においてPを含む3名の警察官は、 証人として、逮捕状を逮捕現場においてAに示すとともに被疑事実の要旨を読み聞かせた旨の証言をした。この事例において尿の鑑定書の証拠能力は認められるか。
0.本課題について
被告人Aはかねて窃盗の被疑事実による逮捕状が発付されていたところ、警察官3名は、逮捕状を携行しないでA方に赴いた。警察官等は、A方前でAを発見して任意同行を求めたところ、Aは逃走したが、まもなく逮捕された。その後、Aは警察署に連行された直後に、逮捕状を提示された。逮捕状には、逮捕現場において逮捕状を提示してAを逮捕した旨のP警察官作成名義の記載があり、また、Pは同日づけでこれと同旨の記載のある捜査報告書を作成した。Aは、警察署内で任意の採尿に応じたが、その際、Aに強制が加えられることはなかった。尿鑑定の結果、覚せい剤成分が検出された。公判においてPを含む3名の警察官は、 証人として、逮捕状を逮捕現場においてAに示すとともに被疑事実の要旨を読み聞かせた旨の証言をした。この事例において尿の鑑定書の証拠能力は認められるか。
1.問題の所在
本事例においては、Aの逮捕の際に、警察官等は逮捕状を提示していない。そのため、Aの逮捕は令状主義に反し、手続的な違法性があるものとして、証拠能力が否定される可能性がある。加えて、虚偽の事実を記載した捜査報告書を作成し、事実と反する証言...
1.問題の所在
本事例においては、Aの逮捕の際に、警察官等は逮捕状を提示していない。そのため、Aの逮捕は令状主義に反し、手続的な違法性があるものとして、証拠能力が否定される可能性がある。加えて、虚偽の事実を記載した捜査報告書を作成し、事実と反する証言をした事後的な事情もある。
これに対して、尿の鑑定は、強制は加えられておらず、あくまで任意の採用によるものである。この事実そのものは違法性がないものとも思えるが、その尿鑑定も違法性が疑われる逮捕状態を利用したものとなる。
そのため、尿の鑑定書の証拠能力の有無を検討するにあたって、まず、Aの逮捕の違法性の有無を検討し、Aの逮捕が違法であった場合に、尿の鑑定書の証拠能力を否定するものになるか検討する。