経営学Ⅰ
雇用をめぐる日本企業の状態について
日本の雇用形態
戦後における驚異的な経済成長を担った日本企業に特徴的な雇用慣行として、長期安定雇用(終身雇用),年功制(年功賃金・昇進),新規学卒者の定期一括採用などがあった。
(1)長期安定雇用(終身雇用)
これは日本的経営の特徴の一つとしてよくあげられるもので、正確に言うと「終身」の雇用ではなく、定年になるまで長期的・安定的に雇用関係が継続する雇用慣行である。これにはいろいろとメリットがあり
・収入が安定することで社員のモチベーションを一定以上に保つことができる。
・会社に対する社員の帰属意識が高まり、他部門で発生した問題も自分の問題として考えるようになる。
・先輩から後輩へ社風(思想・伝統等)の継承が行われるため、企業文化の維持発展が容易になる。
・社員の成長を長い目で考えられるようになり、人を育てるという気風が生まれる。
・社員に仕事を通じて社会に貢献するんだという考え方が根付くようになる。
・雇用の安定により所得格差の問題が少なくなる。
など、長期雇用には一定の経済合理性があり、統計的にも広く認められる現象といえる。
(2)年功制(年功賃金・昇進)
年功賃金は、賃金(特に基本給に相当する部分)が勤続年数に応じて増加していく制度であり、年功昇進は、勤続年数を基準に昇進が行われる制度である。日本においてこのような制度が成立した理由としては、組織単位の作業が中心で成果主義を採用しにくかったこと、年少者は年長者に従うべきという儒教的な考え方が古代から強かったことが挙げられる。集団で助け合って仕事をする場合は、個々人の成果を明確にすることが難しい場合も多く、組織を円滑に動かすには構成員が納得しやすい上下関係が求められる。職能概念に基づく年功序列制度は、こういったニーズを満たす合理的な方法だったのである。
(3)新規学卒者の定期一括採用
日本企業は、新規学卒者の定期一括採用を基本としてきた。このような採用方法の背景には、日本企業の多くが大学での専門教育にあまり期待せず、新卒学生を即戦力としてではなく一定の基礎学力を持つ人材として採用し、OJT(企業内で行われる職業指導手法のひとつ)などを通じて社内で時間をかけて教育訓練を行いながら会社のカラーに染め上げていくという人材育成方法が存在していた。これも
・募集、採用、訓練のコスト削減
・年功賃金制、年功昇進性の運用のしやすさ
・同期入社の従業員間に仲間意識と競争意識を生み出す
など、さまざまなメリットがある。
雇用形態の変化
しかし今では雇用形態は変わり、パートタイマー、派遣労働者、契約社員など、いわゆる非正社員(非典型雇用労働者)も多くなってきているパートタイム労働が労働力の需給両面のニーズに合った就業形態であることによると考えられる。まず、需要側のニーズについては、経済のサービス化や企業活動の多様化によってさまざまな時間帯の労働力が必要となったこと、景気変動や企業活動の変更に伴う雇用調整が容易な労働に対する需要が大きくなったことなどが挙げられる。一方、供給側のニーズとしては労働力の方でも家事育児を両立させやすいことや勤務地や労働時間について労働者自身の選択の余地が大きい就業形態であることがあげられる。例えば、需給側のメリットとしては、
・賃金の節約のため
・1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため
・景気変動に応じて雇用量を調整するため
・即戦力になる人材や能力のある人材を確保するため
など、様々ある。
また、非正社員は数の増加だけでなく職務内容においても、従来のような正社員は基幹・専門職務、非正社員は補助・単純職務といった職務分担が崩れつつあり、基幹化する傾向をみせている。このような非正社員の量的・質的な変化は、労働力の需要側である企業と供給側である働く人達の双方のニーズに基づくものであって、共に大きな牽引力となって進行してきた。サービス経済化や情報化の進展によって、労働力が第三次産業へとシフトし、そのような産業構造の変化を背景にした企業の効率化の要請が、正社員という枠に捕らわれない柔軟な働き方を促した。他には、初めは就職希望であったが、企業の新規学卒者に対する採用意欲の低下により就職できずにパートなどの非正規社員になることもある。この理由は、不況・不景気などの変化の多きい先の見えにくい社会で経済活動を続けていくためには、雇用についても一定範囲の柔軟な部分が必要になるので、それを織り込んだ雇用管理をしていこう、という方向である。これらは新規学卒正社員の厳選採用と非正規雇用の拡大が進む現在の状況をよく説明する考え方である。
しかし、パートタイマーなどでも特にフリーターなどになると、いざ就職しようという時に、経験不足や長続きしないという固定概念が根強いことを理由にほとんど不採用となってしまい、抜け出すことは不可能に近い状態になる。
現在の非正規社員の状況
現在は、2008年末の金融危機を発端とする世界的不況以降、正規雇用者以外の労働者である派遣社員を雇用する派遣事業者と締結していた大規模な派遣契約の打ち切りと、それに伴う派遣業者の解雇や雇い止めをする、いわゆる「派遣切り」が行われている。不況を理由にするとはいえ、解雇された労働者のその後の生活も鑑みない手段について、人権問題からの観点や企業のモラルから問題視する声も多く出ている。満了以前の契約切りは「解雇」であり、解雇整理四要件を満たさない限り「不当解雇」であり労働契約法にも抵触するが、刑事、行政の罰則は無く、民事で訴えるしかない。派遣業者の立場からは、派遣先の企業の都合により契約満了以前に打ち切ることが契約条項に入っているので違法性がないというのに対し、労働者側の立場では、構造改革による派遣関係の規制緩和政策により、人材関連業界の拡大が図られたこともあり相対的に弱く、訴えの費用に比して効果が少なく労働者が泣き寝入りしているのが現状である。
また、2008年12月31日から2009年1月5日には東京都千代田区日比谷公園に複数のNPO及び労働組合によって組織された実行委員会が「派遣村」と呼ばれる一種の避難所を開設した。実行委員会によれば、これは派遣先から契約を解除・解雇され寮などの住居を失った元派遣社員らの支援を目的としている。
これらのことより私は、正社員と職務が同じパート社員は、処遇に当たって正社員との均衡を図るように努めたり、正社員への転換を可能にする条件を整備するよう努めたり、パート社員から意見を聞いたり、処遇について説明したりするなど、労使の話し合いを促進するよう努めるべきだと想う。また、労働力量の調整のためと言って非正社員等の「派遣切り」を行うのをできるだけ避け、今まで以上にワークシェアリングを導入するなどして解雇を減らすべきだと思う。
参考文献
『現代経営学の基礎』 松本芳男
『2000年の労働』 労働大臣官房政策調査部
『企業社会と労働者』 高橋祐吉
『フリーターという生き方』 小杉礼子