和歌山毒物カレー事件を検証する

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    資料紹介

    はじめに
    和歌山毒物カレー事件(以下「カレー事件」という)は、1998年に発生し、日本全国を震撼させた事件であるが、今年の6月、この事件の控訴審判決が出されたことで、再び注目を浴びた。この事件の裁判は、報道でも伝えられるように、一審では被告人は完全黙秘を貫き、また、自白をはじめとする直接的な証拠がない状態で行われた。つまり、情況証拠により事実認定がなされ、それに基づき判決が出されたのである。
    近年、カレー事件と同様自白がなく情況証拠のみで事実認定が争われた事件には、ロス疑惑銃撃事件や東電OL事件 などがあるが、これら過去の判決には、事実認定の過程に問題が見られ、批判がなされている。また、情況証拠による事実認定には、誤判の危険があるとして、研究家・実務家の間で議論がなされており、その中で、刑事裁判の理念である無辜の不処罰を確実なものにするため、情況証拠による事実認定の適正化が叫ばれるようになっている。
    では、はたしてカレー事件での事実認定は、上記のような議論の中で、適正に行われたのだろうか。情況証拠による事実認定には、いつも誤判の危険性が伴うが、裁判上でこの危険性は克服されたのか。本稿では、カレー事件の判決に向けられた事実認定がいかにして行われたのか、そしてその方法に問題はなかったのかについて、検討する。
    1、和歌山毒物カレー事件
    (1)事件の概要
    まず、本事件の概要について、説明する。
    この事件は平成10年(1998年)7月25日に発生した。
    和歌山県和歌山市園部の自治会の夏祭り会場で配られた主婦の手作りカレーを食べた周辺住民が次々に腹痛や吐き気を訴え、病院に運ばれた。当初、和歌山市保健所は集団食中毒と発表したが、26日になって最終的な4人の死亡者のうちの一人目が死亡。遺体を司法解剖した結果、青酸化合物が検出され、和歌山県警は死因を青酸化合物による中毒死と断定した。その後、さらに未成年者を含む3名が死亡、63名が傷害を負った。

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    和歌山毒物カレー事件を検証する
    ――情況証拠による事実認定の観点から――
    groundnut
    <目次>
    はじめに
    1、和歌山毒物カレー事件
    (1)事件の概要
    (2)和歌山毒物カレー事件における問題点
    (3)第一審の問題点
    (ⅰ)類似事実による本件事実の立証
    (ⅱ)砒素の同一性についての鑑定
    (ⅲ)近所の主婦等の証言の信用性
    (ⅳ)動機
    (ⅴ)殺意の有無
    (ⅵ)黙秘権の行使
    2、情況証拠による事実認定
    (1)情況証拠による事実認定
    (ⅰ)情況証拠とは
    (ⅱ)情況証拠による事実認定について検討する意義
    (ⅲ)情況証拠による事実認定の特徴
    (ⅳ)注意則・経験則の形成とその意義
    (2)情況証拠による事実認定に関する注意則・経験則の具体例
    (ⅰ)類似事実に関して
    (ⅱ)鑑定に関して
    (ⅲ)証言の信用性に関して
    (ⅳ)動機の意義
    (ⅴ)殺意の有無に関して
    (ⅵ)黙秘権の行使
    3、第一審判決で扱われた情況証拠の評価
    (1)情況証拠それぞれの評価
    (ⅰ)類似事実とこれによる本件事実の立証
    (ⅱ)砒素の同一性についての鑑定
    (ⅲ)近所の主婦等の証言の信用性
    (ⅳ)動機
    (ⅴ)殺意の有無
    (ⅵ)黙秘権の行...

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