素朴なマクロ経済モデルでは、政府支出増加は確かにGDPを増加させる効果があり、しかも、その効果は減税よりも大きい。単純化されているため政府支出はどのような形でも差はなく、極論すれば、穴を掘って埋めるという将来的に有用ではないことでも構わない。
しかし、当然のことながら現実はそう簡単ではない。
まず、財政支出を増加させることは否応がなしに財政赤字を生む。この赤字は、いつかは返さなければならないのだから、増税を見込んで人々の消費は下がるかもしれない。他にも財政赤字の害としては一般的な「クラウディング・アウト」論がある。財政赤字が高水準になると、実質金利が上昇し、民間の設備投資が妨げられるという主張である。民間の投資と政府の投資を比べれば、民間の方が効率の良い投資を行うので、長期的に見ると、民間の投資を押し下げる政府支出増加は厄介な代物である。
まず素朴な閉鎖マクロ経済モデルから公共投資(ここでは政府支出Gと置く)を増やした場合と減税(租税はTと置き所得に無関係)をした場合とで比較してみる。
GDPをY、基礎消費をα、限界消費性向をβ(ただし0<β<1)と置く。ΔGをした時のΔY、すなわち政府支出乗数は になる。 減税の乗数効果は、 であり、βは1以下なので、政府支出を増加させた場合の方が、景気刺激効果が大きい。これは、Gの増加の場合、それが第一ラウンドでは全額が有効需要の増加となるのに対して、減税の場合には、減税によって増加した可処分所得のうち、第一ラウンドの(1-β)兆円がさきに貯蓄として漏出してしまうことに原因がある。
以上のように、素朴なマクロ経済モデルでは、政府支出増加は確かにGDPを増加させる効果があり、しかも、その効果は減税よりも大きい。単純化されているため政府支出はどのような形でも差はなく、極論すれば、穴を掘って埋めるという将来的に有用ではないことでも構わない。
しかし、当然のことながら現実はそう簡単ではない。
まず、財政支出を増加させることは否応がなしに財政赤字を生む。この赤字は、いつかは返さなければ...