価格の引き下げ行為は一般に、公正かつ自由な競争の維持・促進に不可欠な行為であり、社会の経済活動にとって重要な要素である。しかし、一見健全な競争行為が一線を越えると、自由な競争を害し、他の事業者を廃業に追い込むことになりかねない。そのような行為を不当廉売という。
不当廉売とは「正当な理由がないのに商品または役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、その他不当に商品または役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせる恐れがあること」である(独禁法二条九項三号、一般指定六項)。不当廉売の典型例として、略奪価格設定(ある事業者が、一時的な損失を覚悟のうえ、競争者が対抗できないような低価格で販売して、競争者を市場から排除しようとすること)と、おとり廉売(自己の店舗に顧客を引き付ける目的で特定の商品の価格を引き下げること)がある。本件は後者の事例である。
不当廉売が成立するためには、価格競争行為が①「正当な理由がないのに」、②「供給に要する費用(原価)を著しく下回る対価で継続的に供給し」かつ、③「他の事業者の事業活動を困難にさせる恐れ」があることが必要である。まず、...