シンポジウム『武智鉄二・伝統と前衛』に参加して。
はじめに
武智鉄二は,青年期から伝統演劇に親しみ,活発な評論活動を行って劇界に衝撃を与えるとともに,戦後,能・狂言・歌舞伎の前衛的な演出に挑戦し,古典の現代への再生を達成。その後,映画の製作,監督にも取り組み,検閲問題をめぐって映倫と対立するなど,数々の問題作を発表したことについて,シンポジウムでは,多面的な資料により,一貫した前衛性と反権力の姿勢を横断的にその全貌を浮き彫りにし,捉え直すとの趣旨であった。
確かに、伝統や慣習を踏襲しているだけでは、新しい発見や解釈が生まれてこないとも考えられる。例えば、伝統芸能である能・狂言や歌舞伎などは、代替わりし、演じ手の個性や伝統に則った解釈の違いによって多少の変化があったに過ぎなかったのであろう。伝統芸能は、伝統の上に成り立つという考え方の時代に,前衛的といわれる演出をするのは、発想はもちろんのことで、相当な勇気が必要であったと考えられる。それは、内外からの批判があったようであるから、そのように考えるのであるが、武智本人はあまり気にしていなかったと思わせるような記述もある。信念があることによっ...