中国古代の思想家たちは人の性を問題にしていたが、そもそも、人の性はどのような問題意識でもって思想家たちの課題となったのだろうか。「性」が問題にされ始めた思想史的コンテクストを考える必要がある。
基本的なことだが、「性」という文字は、その構造が表すとおり、「生」まれたままの「心」を意味する。つまり、「性」は人が生まれたばかりのナマの心を意味するが、孟子の性善説や荀子の性悪説のような性説が、純粋な人間一般の観念を研究するものであったとか、そこで言われる「善」や「悪」が、現代人の倫理に直結するものであったと、勘違いをする人が多いのではないだろうか。少なくとも私はその一人だった。
周の封建制が、春秋・戦国を通じて、動揺し崩壊していく過程で、人間の生き方の変化がそれに連関してあらわれてくる。君臣関係の流動化のもとで身を処していく新しい生き方がなされていることがそのもっとも顕著な例としてあげられるが、当時の人々の生き様にはそれ以外の方向性がみられる。
周代の封建制の解体と邑国家から領域国家への移行、その間の急激な社会の変動は封建制の枠の内部での伝統的な生活様式を打ち壊し、それまでにみられなかったタイプの、新しい生の営みを生み出していった。当然の事ながら、生き方が変わればそれと切り離せない価値観もまた変化する。封建的君臣関係・氏族制的人間関係の中での価値観、つまりは道徳規範が動揺し、社会の進展をふまえた新しい道徳規範が模索されてくる。
表題:荀子の「性悪説」の背景にあるものとその内容
中国古代の思想家たちは人の性を問題にしていたが、そもそも、人の性はどのような問題意識でもって思想家たちの課題となったのだろうか。「性」が問題にされ始めた思想史的コンテクストを考える必要がある。
基本的なことだが、「性」という文字は、その構造が表すとおり、「生」まれたままの「心」を意味する。つまり、「性」は人が生まれたばかりのナマの心を意味するが、孟子の性善説や荀子の性悪説のような性説が、純粋な人間一般の観念を研究するものであったとか、そこで言われる「善」や「悪」が、現代人の倫理に直結するものであったと、勘違いをする人が多いのではないだろうか。少なくとも私はその一人だった。
周の封建制が、春秋・戦国を通じて、動揺し崩壊していく過程で、人間の生き方の変化がそれに連関してあらわれてくる。君臣関係の流動化のもとで身を処していく新しい生き方がなされていることがそのもっとも顕著な例としてあげられるが、当時の人々の生き様にはそれ以外の方向性がみられる。
周代の封建制の解体と邑国家から領域国家への移行、その間の急激な社会の変動は封建制の枠の内部...