『日野市立図書館の、日本図書館史における意義』(八洲学園大学☆評価:優)[1]

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    資料紹介

    八洲学園大学司書課程(図書及び図書館史)にて、成績:優を修めた資料です。参考文献等、お役に立てればと思い全体公開させていただきます。尚、有償になりますが、日野市立図書館以降の公共図書館の隆盛とは反対に、現代における公共図書館の衰退の事例として、『大都市公共図書館の盲点と衰退』にて、大阪市立図書館を題材にホームライブラリーの現状と問題点を詳細に論じています。問題点や課題を複数列挙していますので、その中に皆様のホームライブラリーが抱える問題点や課題と共有する部分があるかと思います。

    資料の原本内容

    はじめに
    『中小都市における公共図書館の運営』(1963)刊行からおよそ50年、現代の公共図書館は財政難
    による「予算の削減」、「委託問題」、さらには「無料貨本屋論」など様々な逆風に吹かれている。しかし
    ながら、これらの予算的困難や本質からずれた批判などの諸問題は、50年前の公共図書館が抱えて
    いた問題と比較すると非常に些細なものであると感じてしまう。というのも、当時の公共図書館には資
    料を購入するための必要最低限な予算もなければ、そもそも公共図書館の機能が「資料の利用・提
    供」であるという認識すら存在しなかったからだ。極端に言うと、現代の我々が常識だと思っている図書
    館サービスは、50年前では非常識だったのである。
    そのような途方もない問題を抱え、閉塞的な公共図書館の現状を打破しようとしたのが『中小都市に
    おける公共図書館の運営』(1963)の刊行であり、この時初めて、公共図書館の本質的機能はそれま
    での「資料の保存」ではなく、「資料の利用・提供」であると宣言されたのである。そしてその理念を具体
    的に体現してみせたのが日野市立図書館であり、たった一台の移動図書館だったのである。日本の図
    書館史において、この一台の移動図書館が図書館界に投じた一石(奉仕・情熱)がなければ、現代の
    「貸出・閲覧・リクエスト」といったサービスは存在しなかったと言っても過言ではない。
    そこで本論では、日本図書館史における日野市立図書館の意義を明確にするため、日野市立図書
    館の活動を考察する。また、日野市立図書館が現代の公共図書館に与えた影響(残してくれたもの)
    についても確認したい。

    1、 日野市立図書館の意義
    1965年9月、有山崧と前川恒雄の計画のもと、日野市立図書館は一台の移動図書館として誕生す
    ることになる。発足当時は学校体育館の一室が事務室であり、職員は館長を含む7名、そしてわずか5
    00万円の図書費が、その移動図書館の全てであった。奉仕人口7万人を考えると万全な状態からは
    程遠いものであったが、日野市立図書館は予想以上の効果(利用者の獲得)を上げ、翌年度には図書
    費を1000万円にまで引き上げることに成功する。つまり、「図書館を市民の身近なものとすれば貸出
    は市民に利用されること」、「利用者の獲得には十分な図書費が必要であること」を実証してみせたの
    である。
    もちろん、日野市立図書館の成功の裏には図書費以外の要因もある。それは貸出の仕組みであり、
    日野市立図書館では「利用者のプライヴァシーを守る(ブラウン方式)」ことが徹底されたのだ。という
    のも、それまでの図書館の主流な貸出方式は「保証人が必要・1冊のみ」という代物で、利用者のプラ
    イヴァシーが守られない、すなわち、利用促進からは程遠い仕組みだったからである。
    その後、日野市立図書館は順調に利用者数・貸出数を伸ばし、1966年には市民のからの要望によ
    り「分館」が作られるようになった。この頃には、利用者以外にも文庫活動をしている他市の市民、ある
    いは各地の図書館員が訪れる(見学)ようになり、日野市立図書館の実情を知り影響を受けた人々に
    よって「図書館設立運動」が全国各地で展開され、図書館の増加とともにその質(専門職の配置・図書
    費の充実)においても、図書館の変革が求められるようになった。
    そして1971年には「児童図書館」の設立、1973年には「中央図書館」が完成し、「だれでも、いつで

    も、どこでも、なんでも」利用できることを理想の姿とする「市民の公共図書館」が誕生したのである。

    2、 日野市立図書館の影響
    日野市立図書館が現代の公共図書館に与えた影響は、今なお多くの図書館に根付いている。具体
    的には、「公共図書館の基本的機能は、資料を求めるあらゆる人々に、資料を提供することである。」
    (1)という理念を核として、「市民の求める図書を自由に気軽に貸出すこと」(2)、「児童の読書要求にこ
    たえ、徹底して児童にサービスすること」(3)、「あらゆる人々に図書を貸出し、図書館を市民の身近か
    に置くために、全域にサービス網をはりめぐらすこと」(4)が、各地の公共図書館で実践されている。実
    際に、図書館に行けば誰でも自由に閲覧をし、好きな資料を借りることができる。あるいは分館に目当
    ての資料が無かったとしても、中央館から取り寄せて入手することができるのである。
    また、今日に至る図書費の底上げも、日野市立図書館が「利用者の獲得には十分な図書費が必要
    であること」を実証したからであり、さらには、利用者が気軽に貸出を利用できるのも、「利用者のプライ
    ヴァシーを守る」ことの必要性を日野市立図書館が図書館界に浸透させたからである。
    そして何よりも、日野市立図書館が現代の公共図書館に示してくれたことは、「公共図書館の活動は
    市民への奉仕活動である」ということである。つまり、図書館に関らず、サービス業として必要不可欠な
    「奉仕精神」の重要性を、日野市立図書館は身をもって我々に教えてくれたのである。

    おわりに
    日本の図書館史における日野市立図書館の意義とは、「だれでも、いつでも、どこでも、なんでも」利
    用できる「市民の図書館」を、実践を通じて完成させたことである。そしてその活動は『市民の図書館』
    (1970)にまとめられ、それを元に、全国各地の公共図書館が「貸出サービス・児童サービス・全域サ
    ービス」を徹底するようになった。そして何よりも、全ての活動の底流にある「利用者への奉仕精神」の
    重要性の認識が、その後の公共図書館の質を向上させたのである。それは利用者を支え、また、図書
    館で働く図書館員のやりがいに繋がったのである。
    『中小レポート』刊行から 50 年、現代の公共図書館は様々な逆風に吹かれているが、日野市立図書
    館の困難に対する躍動を考えれば、現在の状況は決して打開できないものではないと筆者は信じてい
    る。

    【注】
    1、 編集・発行日本図書館協会『市民の図書館』(増補版)、1976 年 5 月。P10。
    2、 編集・発行日本図書館協会『市民の図書館』(増補版)、1976 年 5 月。P3。
    3、 前掲。
    4、 前掲。

    【参考文献】

    1、 小川徹・奥泉和久・小黒浩司著『公共図書館サービス・運動の歴史2‐戦後の出発から現代まで‐』
    日本図書館協会、2006 年 11 月。
    2、 小黒浩司編著『図書及び図書館史』(シリーズ第二期)日本図書館協会、2010 年 2 月。
    3、 関千枝子『図書館の誕生‐ドキュメント日野市立図書館の 20 年』日本図書館協会、1986 年 4 月。
    4、 田村俊作・小川俊彦『公共図書館の論点整理』勁草書房、2008 年 2 月。
    5、 編集・発行日本図書館協会『市民の図書館』(増補版)、1976 年 5 月。
    6、 日本図書館協会『中小都市における公共図書館の運営』(1963)、2006 年 4 月。
    7、 前川恒雄・石井敦『新版 図書館の発見』(NHK ブックス)日本放送出版協会、2006 年 1 月。

    【総字数】
    計 2395 字

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