『オリバー・ツウィスト』と『オリバー!』
今回『オリバー・ツウィスト』を扱ったことで、ディケンズの社会に対する批判の目や打ち立てようとした子供の理想像を知った。また音声と言葉による『オリバー!』(ライオネル・バート監督1968)からは人物の発音や語感を意識的に追うという見方から、言外の意味合いについて感じとることができた。『オリバー・ツィスト』はディケンズが社会への問題意識に基づき筆を執った作品のために、悪漢小説という分類に留まらない多様な考察の余地がある。その一例として、本稿ではまず作品自体の考察を述べ、後半に原語から作品を鑑賞することを考察したい。
まず松村昌家の『ディケンズの小説とその時代』によれば、本作品は『ラサリ―リョ・デ・トルメスの生涯』に端を発する悪漢小説に属する。しかし『ラサリ―リョ・デ・トルメスの生涯』を読んだところ、決定的な違いが見受けられた。『ラサリ―リョ・デ・トルメスの生涯』は少年ラサリ―リョが世知に長けていく過程が本筋である。盗賊の巣窟にありながら悪行に手を染めないオリバーと対称である。この点についてさらに考えたい。松村によればピカレスクの系譜は...