《巨獣-安南猟者のヒーローについて―》
緒論
「広記」四四一の「畜獣」、「象」の「安南猟者」は日本語で四頁弱の極めて短い小話である。
ある日猟を生業としている男が眠っていると普通の象の培ほどの大きさの象がやってくる。象は男を背中に乗せると、象の群れがいるところまで素早く移動し、男を木の上に隠れさせる。やがて、そこに巨大な獣が現れ、白象が率いていた象の群から数匹の象を一飲みにする。白象の意をくんだ男が、放った矢で獣を仕留めると白象とその群れは咆哮して男に拝し、礼として象牙を進上した。
この小話には人間と意思疎通が出来る白象や、その骨にあいている穴を人が通り抜けられたという巨獣が登場し、そうしたモチーフは他の白話にはない独特なものである。
そのため、このような変則的な作品にも見られる普遍的特徴を揚げると同時に、本作品固有のヒーロー像も手がかりにしながら白話文学におけるヒーロー像を明らかに...