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刑法事例演習教材
10 偽装事故の悲劇
甲の罪責
甲は、自車をAの自動車の後部に追突させ、Aに傷害を負わせ、Aは死亡した。この行為によって、甲には、傷害致死罪 が成立するのではないか(205条)。
甲は、Aの依頼に応じて自車をAの自動車に追突させた。そのため、この行為について、Aの同意があるため、違法性が阻却され、故意が認められないのではないか、問題となる。
確かに、傷害について被害者が同意 した場合には、法益が放棄されるため、違法性が否定されると考えられる。しかし、その同意が、違法な目的のためにされたものである場合には、その同意自体が違法であり、傷害行為の違法性を阻却しない。
本件では、Aの同意は、保険金詐取という違法な目的のためにされている。したがって、Aの同意により、甲の傷害行為の違法性は阻却されない。
よって、甲には、傷害行為について故意があったといえる。
では、甲は、Aの自動車の後部に追突した行為によって、Aの死亡結果まで責任を負うか。甲がAに直接に負わせた傷害は、頸椎捻挫のみであって、Aが死亡するまでには、乙が自車をAの自動車に衝突させた行為と、Aが安静にせず暴...