刑法論文答案練習 社会的法益 放火罪
~複数建造物の一体性~
【問題】
Xは、本殿・社殿・社務所・守衛詰め所等の複数の建造物が木造の回廊によって接続しているA神社の一部である祭具庫付近で、深夜に放火し、祭具庫および接続する本殿を炎上させた。放火地点と人が現住していた社務所・守衛詰め所まではおよそ200メートル離れていた。
【問題点】
・・・外観上、現住性の認められる建物部分とそうでない複数の建物部分から構成されている場合、いかなる要件のもとで、全体を一体なものとして一個の現住建造物と認めることができるのか。建造物の一体性の判断基準が問題となる。
【見解】
○ 建造物の一体性の判断基準
・・・最決平成元年7月14日(平安神宮社殿放火事件)で「物理的」観点(=物理的一体性)と「機能的」観点(機能的一体性)の双方から判断する、とした。
【答案例】(判例をベースにして作成したもの)
1 Xの行為は現住建造物放火罪(刑108条)を構成するのであろうか。Xが放火した非現住部分と他の現住部分とは、建造物として一体性があるといえるかが問題となる。
2(1) 思うに、現住建造物放火罪が非現住建造物放火罪に比べて重く処罰されるのは、現住建造物に対する放火により人の生命・身体を侵害する危険性が特に大きいからである。つまり、居住であれば、居住者が不在でもいつ何時居住者や訪問者が中に立ち入り、放火により生命・身体に危険を被るかもしれないことが考慮されているためである。
そうだとすると、現住部分と非現住部分とがある建造物について、非現住建造物への放火により現住部分に右の危険が生じると考えられるのは、二つの部分が一個の現住建造物と同視するべき構造上の一体性を備えている場合ということになる。
(2) そして、これには、二つの場合がある。
一つは、現住部分と非現住部分とが物理的観点から見て一体をなした一個の建造物であるため、非現住部分への放火により直ちに現住部分にも危険が生じると考えられる場合である。そこで、現住部分への延焼可能性の有無・程度も考慮して、物理的観点から見て一個であって、その一部に放火されることにより全体に危険が及ぶような建造物は、現住部分と非現住部分から構成される場合でも、一個の現住建造物と解するべきである。
二つは、現住部分と非現住部分とが機能的な観点から見て構造上一体として一個の現住建造物の用を果たしているため、独立してみれば非現住部分のように見える部分に放火したとしても、実質上現住部分の一部への放火に他ならず、直ちに公共の危険が生じると考えられる場合である。
(3) それゆえ、建造物の一体性は、平安神宮社殿放火事件判例のいうように、「物理的」観点(物理的一体性)と「機能的」観点(機能的一体性)の双方から判断するのが妥当である。
3 本問では、複数の建造物が木造の回廊によって接続しているから、現住部分に延焼可能性があり、物理的観点から見て一個であって、その一部に放火されることにより全体に危険が及ぶ構造をなしているから、一個の現住建造物と考える。
したがって、Xには現住建造物放火罪(刑108条)が成立する。