(4,364字) 事件や事故が起こった場合、当事者である被害者・加害者の供述と同様に重要視されるのが、目撃者の証言である。しかし、目撃者の誤った記憶によって引き起こされる、冤罪や誤判事件が数多く存在するのも事実だ。ここでは、目撃証言に関する記憶の歪みについて考えてみようと思う。
まず私が興味を持ったのが、人からの情報によって自分の記憶が塗り替えられてしまうということだ。このことを研究したのがロフタスである。彼女は、記憶の歪みを扱った研究の先駆けとなった。以下に示すのは、ロフタスの実験を要約したものである。
この実験では、歩行者を巻き添えにした交通事故のスライドが被験者に提示され、被験者は後でその内容について質問される。スライドの内容は、「歩道に沿って走っていた赤い車が右折しようとして、横断歩道を渡っている人に接触してしまう。そこへ緑の車が通りかかるが、止まらずに行ってしまった」というものだ。スライドの提示後、半数の被験者には、「事故現場を通り過ぎたのは青い車であった」という間違った内容を含む質問が故意にされ、残りの半数には、色についての表現がない同じ質問がされた。その後、色の再確認テストが行われた。質問の中に色の情報がなかった被験者は、通り過ぎた車の色としてほぼ正しく緑を選んだが、質問で「青」の情報を与えられた被験者は、青または青緑を選ぶ傾向にあった。つまり、自分の見たものと矛盾する情報が質問の中に含まれていただけで、被験者は自分自身が記憶していた情報を変容させていたのである。
目撃者の記憶とその歪み
事件や事故が起こった場合、当事者である被害者・加害者の供述と同様に重要視されるのが、目撃者の証言である。しかし、目撃者の誤った記憶によって引き起こされる、冤罪や誤判事件が数多く存在するのも事実だ。ここでは、目撃証言に関する記憶の歪みについて考えてみようと思う。
まず私が興味を持ったのが、人からの情報によって自分の記憶が塗り替えられてしまうということだ。このことを研究したのがロフタスである。彼女は、記憶の歪みを扱った研究の先駆けとなった。以下に示すのは、ロフタスの実験を要約したものである。
この実験では、歩行者を巻き添えにした交通事故のスライドが被験者に提示され、被験者は後でその内容について質問される。スライドの内容は、「歩道に沿って走っていた赤い車が右折しようとして、横断歩道を渡っている人に接触してしまう。そこへ緑の車が通りかかるが、止まらずに行ってしまった」というものだ。スライドの提示後、半数の被験者には、「事故現場を通り過ぎたのは青い車であった」という間違った内容を含む質問が故意にされ、残りの半数には、色についての表現がない同じ質問がされた。その後、色...