大殿は、芸術のために何をしてもはばからない良秀をこらしめるためという名目で、宮中に女官として仕えている良秀の娘を牛車の中に入れて炎で燃やしてしまう。小説の中で、良秀の娘は、何者かに辱(はずかし)められそうになった所を、物語の語り手によって救われる。その何者かが大殿ではないかという疑惑を読者に残している。つまり、大殿が自分の思い通りに良秀の娘を愛し関係を結ぶことができなかった腹いせに、娘を火にかけたとも考えられるのだ。良秀は、燃やされているのが自分の娘と知って唖然とするが、その様子をしっかり見て、見事な地獄変の屏風を完成させる。その後、良秀は自殺する。良秀が最後に自殺するという点で、良秀の人間らしさが出ていると思う。芸術のためには何をしてもかまわないという良秀の超人的な芸術観がそこで限界を迎えていると思われるからだ。しかし、娘が焼かれる様をじっくり見ていたのだから、限界といっても普通の人よりはずっと超人的だと思う。
『地獄変』を読んで
本『地獄変・偸盗』の紹介
”王朝もの”の第二集。芸術と道徳の相剋・矛盾という芥川のもっとも切実な問題を、「宇治拾遺物語」中の絵師良秀をモデルに追及し、古金襴も似た典雅な色彩と線、迫力ある筆で描いた『地獄変』は、芥川の一代表作である。ほかに、羅生門に群がる盗賊の凄惨な世界に愛のさまざまな姿を浮彫りにした『偸盗』、斬新な構想で作者の懐疑的な人生観を語る『藪の中』など6編を収録する。(新潮文庫)
感想
「地獄変」は、絵師の良秀が大殿から頼まれた地獄変の屏風を描くために愛する娘の命を犠牲にする話だと、以前から本の紹介などを通じて知っていた。しかし、実際に読んでみて、愛す...