翻訳の問題点 ~児童文学の何を伝えるか?~
本稿のねらい
ドイツ語で書かれた「グリム童話」と、フランス語で書かれた「星の王子様」を題材に、これらの児童文学が翻訳されることでどのように形を変えて日本にわたったのかを探る。そして、その原因と結果を考えることで、今日の翻訳のあり方を考える。
グリム童話の場合
グリム童話とは?
グリム童話とは1812年、ヤーコプ・ルートヴィヒ・カルル・グリムとヴィルヘルム・カール・グリムの、グリム兄弟によって発行された童話集「子供と家庭の童話」の愛称である。その後グリム童話は、兄弟の手によって改訂が繰り返され、少しずつ現在の形へと変化してきた。
その頃のドイツでは、シュトゥルム・ウント・ドラングと呼ばれる、大きな文学運動が起こっていた。それによって、ドイツ固有の文学の見直しが叫ばれ、民謡や童話に注目が集まり、多くの民謡集や童話集が刊行された。しかし、それらの多くは、編者による改作を受けていて、本来の姿から程遠いものになっていたのである。そこでグリム兄弟は、資料性を持った、原型に近い童話集の製...