刑法論文答案練習 不法原因給付と財産罪

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    資料の原本内容

    刑法論文答案練習 
    不法原因給付と詐欺罪
    【問題】
     Xは、人を殺してやるとAを欺き200万円を交付させた。
    【問題点】
    財物の交付(=処分行為)が民法708条の不法原因給付に該当し、交付者がその返還を請求することができない場合にも、詐欺罪(刑246条1項)が成立するかが問題となる。
    ・民法上保護に値しない債務を刑法上保護する必要があるか。
     肯定説・・・刑法による保護は民法上保護される利益に限定する必要はないとして刑法の独自性を強調する立場
     否定説・・・民法と刑法を統一的に理解しようとする立場
    答案1
     Xが、Aに人を殺してやると欺いて200万円を交付させた行為は、詐欺罪(刑246条1項)を構成するか。
     たしかに、金銭の交付は人殺しの対価としてなされたものであるから、民法上の不法原因給付(民708条)にあたり、Aは交付した金銭の返還を求めることはできない。しかし、Aは、欺罔されなければ財物を交付しなかったという関係が認められるから、欺罔行為によって不法原因給付がなされたとみられる。すなわち、この場合は、欺罔行為によって詐欺罪が成立した後で、不法原因給付が問題となるにすぎない。
     したがって、給付しようとする者の所有権を欺罔手段によって侵害したものとして詐欺罪が成立すると解する。そして、右のように解しても、不法原因給付について横領罪を否定することと矛盾することはない。
     なぜなら、横領罪では不法原因給付がなされた後で問題となるため、保護すべき所有権が委託者に認められないのに対して、詐欺罪では給付しようとする者の所有権を侵害するものであるから、被欺罔者の有する所有権は法律上正当に保護されるべきものとして存在しており、これを侵害する行為を処罰しても全法秩序の統一を害することはないからである。
    答案2
     Xが、Aに人を殺してやると欺いて200万円を交付させた行為は、詐欺罪(刑246条1項)を構成するか。
     人殺しの対価は、民法上不法原因給付にあたり(民708条)、金銭を給付したAは返還請求できない。そこで、財産犯の保護法益が私法上の権限に基づくものに限るとする本権説を徹底すれば、不法原因給付は法律の保護の外にあるから、給付者には法的損害がなく、詐欺罪は成立しないことになると考えられる。
     しかし、民法と刑法とはその目的を異なる。刑法は行為者を処罰するに値する利益が被害者にあるかという観点から、保護される利益の有無を問題にする。それゆえ、民法で保護しないものは、刑法で保護することができないわけではない。民法上の所有権の有無とは独立して、詐欺罪が成立するか検討するべきである。
     そして、裸の占有であったとしても、事実上の利用関係の侵害を伴う以上は、財物の利用関係としての占有それ自体を保護する必要がある。裸の占有でも、それを何ら理由なく侵害する行為は財産犯としての当罰性を有しているからである。
     よって、裸の占有の侵害も処罰に値する法益侵害行為として奪取犯の構成要件に該当する以上、XがAから金銭を騙取した行為は詐欺罪(刑246条1項)が成立すると解するべきである。

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