古代の重要な和歌集である『万葉集』と『古今和歌集』の、文学史的意義を作品の相互関係や時代背景を考慮しながら論じてみる。
この二つの作品から、日本という国が形成されてゆく時代の転換期を見てとることができる。
『万葉集』の成立事情に関しては、はっきりとはされておらず諸説があるが、『古今和歌集』の巻十八・雑下(九七七)に、
神無月時雨ふりおけるならの葉の名にお
ふ宮の古ことぞこれ(参考文献①)
とあり、九世紀後半の清和天皇の時代に『万葉集』は奈良時代に成立していたと考えられている。
これにより『万葉集』は延喜五(九〇五)に成立されたと考えられている『古今和歌集』よりも前に成立した作品ものであることがわかる。
その『万葉集』にはどんな文学史的意義があるだろうか。
まずこの『万葉集』は七世紀から八世紀中ごろの一三〇年間の作品を収めた「現存最古」の歌集であることが挙げられるだろう。それまでにも歌集は作られていたと考えられているが、この歌集が現存最古となった理由は、文字の発達によるものであろう。
当時の日本は唐に習い、律令国家を目指していた時代で、貴族・官僚社会を整え政...