『グリム童話』は、ハンス・クリスチャン・アンデルセン(一八〇五~一八七五)によって創作された『アンデルセン童話』とは異なり、グリム兄弟によって編纂された口承伝承の童話集である。
またシャルル・ぺロー(一六二八~一七〇三)が出版した『ぺロー童話集』(一六九七)は、グリム兄弟の童話よりも一世紀ほど前に発表されたものである。両方に似たような作品があるのはよく知られた事実である。ペローの童話は、フランスの最も洗練されたサロンで読まれたものであった為、上流階級向けのフランス文化が反映されており、作品はメルヘンチックに創作されている。対してグリム兄弟の童話は、七回もの改編によってできるだけ他国の影響を受けていると考えられる作品を排除しており、質実剛健なドイツ的な作風のものを残そうとして編纂されたものである。作品はペローとは違い、ドイツの民衆に向けて書かれたものだった。
では何故彼らは、ドイツの「民衆」に向けて『グリム童話』を刊行したのだろうか。彼らの刊行の最大の目的は、民族意識・愛国精神の高揚にあった。この『グリム童話』が出版された一八一二年はまだドイツは統一されていない。彼らはフランス革命な...