はじめに
「長からむ心も知らず黒髪の乱れて今朝は物こそ思へ」 待賢門院堀川
この和歌の出典は、千載和歌集・巻第十三・恋歌三・八〇二であり、作者は待賢門院堀川である。作者の待賢門院堀川は、生没年未詳であるが、十二世紀中ごろの歌人である。また、この和歌も十二世紀中ごろに作られたと考えられる。
この和歌には縁語が多く含まれている。その中でも黒髪という言葉は、「長からむ」とも「乱れ」とも関わってきていることがわかる。
本レポートでは、和歌の中の言葉に出てくる髪という言葉について明らかにし、その時代における女性における髪の意味合いについて検証する。
本論
髪とは頭髪のことであるが、人となりを象徴的に表すものでもある。また、古来は性別、年齢、身分、職業などによって髪型も決まっていたといわれる。
『角川古語大辞典』(一九八二、p.867)の「古代や中世の女子は垂髪で、特に平安時代の貴族・女房は身の丈にあまる黒髪をもって美人の資格とし、寝るときは打乱箱に入れるなどした。」とあるように、女性の長く豊かな黒髪は優れた女性の象徴であったといえるだろう。そのため、入念に手入れを行っていたという。...