論証:内部統制システム
思うに、 一定規模の会社において、健全な会社経営を行うためには、事業の種類性質に応じて、各種のリスクを把握し、適切に制御するための内部統制システムを整備することを要する。また、大会社や委員会設置会社では、内部統制システムの大綱の決定を、取締役会で決定することが必要である(362条6号)。 従って、 取締役は取締役会の構成員として、①内部統制システムを構築すべき義務を負うとともに、②代表取締役及び業務担当取締役が内部統制システムが構築すべき義務を履行しているか監視する義務を負い、これらは善管注意義務及び忠実義務の内容をなす(330条)。 まず、 ①内部統制システムを整備する義務の履行にあたって注意を尽くすべき水準は、善管注意義務に照らして判断され、損害賠償責任が問題となる際には、経営判断原則が問題となる(大杉説)。 また、 ②取締役の相互に関しあう義務の履行にあたって注意を尽くすべき水準は、善管注意義務に照らして判断される。もっとも、各取締役が部門ごとに担当を振り分けられている場合、取締役は他の取締役が適切に職務を遂行していることを信用して、他の取締役に任せることが許されてしかるべきである。そこで、疑念を差し挟むべき特段の事情がない限り、取締役が何らの措置をとっていなかったとしても当該取締役には義務違反がないと解される(信頼の権利)。