1.江戸時代の前期に成立した律令要略によると、離別は夫の心次第であるが、それには、妻の諸道具、持参金を返さなければならないことになっている。江戸幕府法上、妻の諸道具は妻の特有財産であり、もし、夫が妻の同意を得、または得ないで、妻の諸道具類を質入れした場合には、離婚の際これを請け戻して妻に返さなければならない。
これに対して、妻の持参金は夫の物になる。しかし、夫は離別するときに、これを返さなければならない。実際は、夫は持参金を使ってしまっているだろうから、持参金を持っていくことは、事実上、夫の専権離婚を防ぐ効果があるわけである。「秋風を防ぐ持参の金屏風といわれたゆえんである。
2.このように、江戸幕府法では、妻の諸道具、持参金を返しさえすれば、夫は自由に、すなわち特別の理由なくして離婚できたのであるが、この点は律令の棄妻とよく似ている。
中世では、妻の持参財産は夫のものにならず、妻の特有財産であるから、「棄妻」のとき持参財産を返還するという問題の生じる余地はなかった。しかし、夫が妻に与えた財産があれば、これをのちに取り戻すことはできないという不利益があった。中世では、重科のない妻と...