第Ⅱ族イオンの特性、反応を利用して試料溶液を分析し、第Ⅱ族イオンを検出することを目的とする。
目的
第Ⅱ族イオンの特性、反応を利用して試料溶液を分析し、第Ⅱ族イオンを検出すること
。
理論
各イオンの化合物の特性、反応の違いを利用して、ひとつを固体に、ほかを液体にし
て分離する作業を繰り返し、目的の物質を検出する。
手順
1. 溶液のpH調整
試料溶液に6mol/lのNH4OHを加え、溶液を中和した。(万能試験紙で確認した)
イオン交換水を加え、全量を50mlにし、6mol/l HCl 2.5ml を加え、約0.3mol/l
HCl 酸性にした。
その後、直火で加温した。)
2. 分属
1mol/l Na2S 2ml を加え、沈殿物が空気に触れないようにしながらろ過した。
3. HgS,S(沈殿物)とPb(NO3),Bi(NO3)3,Cu(NO3)2,Cd(NO3)2(ろ液)の分離
②の沈殿物を3mol/l HNO3 15mlの入った蒸発皿に移し、直火で加熱した。
その後、ろ過した。
※沈殿物(HgS,S)の分析は④へ、ろ液(Pb(NO3),Bi(NO3)3,Cu(NO3)2,Cd(NO3)2)の
分析はⅣに続く。
HgS,S(沈殿)の分析
⑤HgSの溶解
王水を調整した。(6mol/l HCl 1.8ml に6mol/l HNO3 1.2
mlをゆっくりと溶かした)
ろ紙上の沈殿物を王水 3mlの入った蒸発皿へ移した。
6. 過剰のCl2の除去
ドラフト内で蒸発乾固するまで加熱した。
7. HgCl2,Sの分離
6mol/l HCl 1ml 、イオン交換水7mlを加え、ろ過した。(
8. Hg2+の検出
⑦のろ液を試験管に3分(1本は予備)し、それぞれにSnCl2、Cu線を入れ、反応を観
察した。
Pb(NO3),Bi(NO3)3,Cu(NO3)2,Cd(NO3)2(ろ液)の分析
Ⅳ. PbSO4(沈殿)とBi2(SO4)3,CuSO4,CdSO4の分離
3.のろ液に6mol/l H2SO4
8~10mlを加え、ドラフト内で白煙が生じるまで加熱した。
放冷後、イオン交換水10mlを少しずつ加え、ろ過した。
※沈殿物(PbSO4)の分析はAへ、ろ液(Bi2(SO4)3,CuSO4,CdSO4)の分析はBへ続く。
A. 沈殿物(PbSO4)の分析
ろ紙上から加熱したCH3COONH4 5ml,6mol/l CH3COOH 5mlを加えた。
ろ液にK2CrO4を加え、反応を観察した。
B. ろ液(Bi2(SO4)3,CuSO4,CdSO4)の分析
アルカリ性になるまで濃NH4OHを加え、(リトマス紙で確認した)ろ過した。
※ 沈殿物(Bi(OH)3)の分析はⅠ. へ、ろ液(Cu,Cdの錯体)の分析はⅡ.
へ続く。
Ⅰ. 沈殿物(Bi(OH)3)の分析
Na2SnO2溶液を調整し、沈殿物に滴下し、反応を観察した。
※Na2SnO2の調整法
SnCl2溶液1mlを純水10mlで希釈した溶液にNaOH溶液を徐々に加えた。
初め沈殿するSn(OH)2が再び溶けて透明になるまで加えた。
Ⅱ. ろ液(Cu,Cdの錯体)の分析
溶液を試験管に5分(1本は予備とする)し、各々の操作を行い、反応を観
察した。
a. 6mol/l H2SO4 を溶液の青色が消えるまで滴下した。
リトマス紙で酸性を確認し、鉄粉小さじ半分を加えて湯せんで5分程度
加熱した。
上澄み液を駒込ピペットで別の試験管に移し、K4[Fe(CN)6]を滴下し、
反応を観察した。
b.
フェノールフタレインを一滴滴下し、溶液が無色になるまでCH3COOHを加
えた。
その後、K4[Fe(CN)6]を滴下し、反応を観察した。
c. ベンゾインオキシムを1~2滴加え、反応を観察した。
d. リトマス紙でアルカリ性を確認し、溶液の青色が消えるまでKClを滴下した。
その後、1mol/l Na2Sを滴下し、反応を観察した。
結果
④ HgS,Sの分析
SnCl2を滴下した溶液:溶液が白く濁った。
Cu線を入れた溶液:銀色のアマルガムが生じた。
Ⅳ- A PbSO4の分析:黄色沈殿が生じた
Ⅳ- B Bi2(SO4)3,CuSO4,CdSO4の分析
Ⅰ. 沈殿物(Bi(OH)3)の分析:沈殿物が黒色に変化した
Ⅱ. ろ液(Bi2(SO4)3,CuSO4,CdSO4)の分析
a. 水色の沈殿が生じた
b. 赤褐色の沈殿が生じた
c. 溶液が青色に変化した
d. 黄色沈殿が生じた
考察
④ HgS,Sの分析
以下の理由より、Hg2+ が検出されたと考えられる。
SnCl2を滴下した溶液について
この実験では、溶液が白くにごった。これは、SnCl2を加えることにより、Hg2Cl2
(白色沈殿)が生じたためだと考えられる。(反応式:HgCl2(溶液)+ SnCl2 →
Hg2Cl2 + SnCl4)
更に、この反応の後にHg2Cl2 + SnCl2 → Hg(黒色)+
SnCl4という反応によって、黒色のHgが発生すると報告されている1)が、今回の
実験では発生しなかった。
これは、HgCl2(溶液)+ SnCl2 → Hg2Cl2 +
SnCl4の反応で発生したHg2Cl2が、この反応を起こすには少なかったためだと考え
られる。
Cu線を加えた溶液について
この実験では、銀色のアマルガムが生じた。これは、CuとHgのイオン化傾向による
ものだと考えられる。
CuはHgよりもイオン化傾向が高いので、CuはCu2+に酸化され、Hg2+はHgに還元され
る。
この遊離Hgが、残ったCuに付着し、アマルガムが生じたと考えられる。
Ⅳ- A PbSO4の分析について
以下の理由より、Pb2+ が検出されたと考えられる。
この実験では、黄色沈殿が生じた。
これは、CH3COONH4、6mol/l CH3COOH
を加えることによって、生じたPb(C2H3O2)2が、K2CrO4と反応して、PbCrO4(黄色
沈殿)を生成したことによるものだと考えられる。2)
反応式:PbSO4 + 2NH4C2H3O2 ⇆ Pb(C2H3O2)2 + (NH4)2SO4 (PbSO4の溶解)
Pb(C2H3O2)2 + K2CrO4 → PbCrO4 + 2CH3COOK
Ⅳ- B Bi2(SO4)3,CuSO4,CdSO4の分析
Ⅰ. 以下の理由より、Bi3+ が検出されたと考えられる。
この実験では、ろ紙上の沈殿物が黒色に変化した。これは、Bi3+がNa2SnO2中
のSnO4-
に還元されて、黒色のBiを生成したことによるものだと考えられる。3)
反応式:2Bi(OH)3 + 3Na2SnO2 → 2Bi + 2Na2SnO3 + 3H2O
Ⅱa.以下の理由より、Cd2+ は検出されなかったと考えられる。
この実験では、水色の沈殿が生じた。
しかし、この実験では、白色沈殿が生じると報告されている。4)
今回水色沈殿が生じたのは、試料溶液中にHg2+が含まれていたためだと考
えられる。Hg2+は、K4[Fe(CN)6]により、白色沈殿→青色沈殿、と変化するこ
とが報告されている5)。
仮にCd2+
が存在したとしても、その反応によって生じる白色は、Hg2+によって生じる
青色に打ち消されてしまう。よって、Cd2+の存在をこの実験結果から確認す
ることはできない。
b. 以下の理由より、Cu2+ が検出されたと考えられる。
この実験では、赤褐色の沈殿が生じた。これは、試料溶液中のCu3+が
[Fe(CN)6]2-
と反応し、Cu2[Fe(CN)6](赤褐色)が発生したためだと考えられる。6)
反応式:Cu2+ + [Fe(CN)6]2- → Cu2[Fe(CN)6]
c. 以下の理由より、Cu2+ は検出されなかったと考えられる。
この実験では、溶液が青色に変化した。
しかし、この実験では、緑色沈殿が発生すると報告されている。7)
d. 以下の理由より、Cd2+ が検出されたと考えられる。
この実験では、溶液の色が黄色に変化した。
これは、試料溶液中のCd2+がKCNと反応して、CdS(黄色沈殿)が発生したた
めだと
考えられる。8)
反応式:Cd(NH3)42+ + 4CN- ⇆ Cd(CN)42+ + 4NH3
Cd(CN)42- ⇆ Cd2+ + 4CN-
Cd2+ + 2CN- + Na2S → CdS + 2NaCN
参考文献
1) 石橋雅義:実験分析化学、P41(3)
2) 石橋雅義:実験分析化学、P42(1)(2)
3) 石橋雅義:実験分析化学、P44(2)
4) 石橋雅義:実験分析化学、P45(a)
5) 石橋雅義:実験分析化学、P33
6) 石橋雅義:実験分析化学、P45(1)
7) 石橋雅義:実験分析化学、P45(c)