〔章段の概要〕
作者が、里邸に退出していると、殿上人が尋ねてくるのをも、人は穏やかでないうわさを言い立てるようである。しかし、作者は特に何か深い意味があって退出しているわけでもないので、腹も立たない。しかしあまりにも煩わしいので、今度退出したところは、左の中将経房の君済政の君といった少数のみが知っていた。
そこに左衛門の尉則光が尋ねてきた。則光が言うのには、藤原斉信からしつこく作者の退出先を教えろといわれ、嘘をつくのはつらかった。そして、隣では経房がすました顔で全く知らないといった様子で座っていたので、目があったら吹き出してしまいそうだったので、苦し紛れに、海藻をとってそれをほおばり、ごまかした。ということである。作者はそれでもなお、則光に「絶対に教えてはなりませんよ」と告げる。
それから何日かたって、滝口の武士が則光からの手紙を持ってやってきた。それによると、明日の御読経の結願の日ということで、斉信が宮中にこもっている。作者の「居場所を教えろ」ときつく言われるので、教えてもよいか。言うとおりにする。 といった内容のものだった。作者は返事は書かずに海藻を一寸ほど紙に包んで使いに持たせた。
その後、やってきた則光が「いつかの晩は、宰相の中将(斉信)責めたてられた挙句、でたらめなところを連れまわし、ひどい目にあった。どうしてどうしろという返事は無く、海藻の切れ端などよこしたのだ。何かの間違いか」という。海藻を包んだ意味を全く理解していないことが癇にさわり、
かづきする あまのすみかを そことだに
ゆめいふなとや めをくはせけむ
と、書いて簾の外に差し出したところ、則光はその歌の書いてある紙切れを扇ぎ返して退散していった。
枕草子 第八十段 「里にまかでたるに…」 段
〔章段の概要〕
作者が、里邸に退出していると、殿上人が尋ねてくるのをも、人は穏やかでないうわさを言い立てるようである。しかし、作者は特に何か深い意味があって退出しているわけでもないので、腹も立たない。しかしあまりにも煩わしいので、今度退出したところは、左の中将経房の君済政の君といった少数のみが知っていた。
そこに左衛門の尉則光が尋ねてきた。則光が言うのには、藤原斉信からしつこく作者の退出先を教えろといわれ、嘘をつくのはつらかった。そして、隣では経房がすました顔で全く知らないといった様子で座っていたので、目があったら吹き出してしまいそうだったので、苦し紛れに、海藻をとってそれをほおばり、ごまかした。ということである。作者はそれでもなお、則光に「絶対に教えてはなりませんよ」と告げる。
それから何日かたって、滝口の武士が則光からの手紙を持ってやってきた。それによると、明日の御読経の結願の日ということで、斉信が宮中にこもっている。作者の「居場所を教えろ」ときつく言われるので、教えてもよいか。言うとおりにする。 といった内容のものだった。作者は返事は...