平安時代の密教彫刻と密教絵画について、それぞれ作例をあげて述べなさい。参考文献有り
平安時代前半の彫刻は素材や作風の上で奈良時代の彫刻と大きく変わる。延暦年間(七八二~八〇六)の制作とみられる奈良新薬師寺の薬師如来像や、延暦一二年(七九三)頃の京都神護寺の薬師如来像は新時代の劈頭を飾る記念すべき違例で、両像とも素木の一木から躰部を彫り出し、衣文を鋭く深く入れ、見る者に力強く迫りくる彫像である。このような新しい木彫像が造立される背景にはいろいろな事情が考えられるが、一つには当代に尊敬されはじめた山林修行者が籠って仏道に励む山林を神聖なものとし、そこに生える木々に山林修行者が身につけたと同じ呪力を感じ、それを 怖する気持が社会的に大きく盛り上がってきたことがあろう。霊威を強く感じさせるために彫りは深く鋭く彫られた。
彫りの深く鋭い一木彫成像が前半における彫像の主流を占め、稜角の鋭い大波と鎬を立てた鋭い小波とが交互に彫刻する翻波式と呼ばれる衣文の表現形式が効果的に多用されるようになる。さらにこの時期の彫像を特色づけるものは空海が唐で習得し請来した真言密教にもとづく新しい密教彫像であり、その曼荼羅的な群像表現である。
空海は弘仁一〇年(819)から一五年頃に高野山金剛峯寺...