憲法 問題・答案 争議権禁止の合憲性
問 公務員は、争議権が禁止されているが、かかる措置は、勤労者に労働基本権を
保証する憲法28条に違反しないか、述べなさい。
答案
1 結論
公務員に争議権を認めない措置は、憲法に違反しない。
2 労働基本権
意義
労働基本権の保障に関し、憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉
その他団体行動をする権利は、これを保障する」と規定する。
趣旨
勤労者の利益を確保するため、勤労者側に、使用者と実質的に対等な立場で交渉
ができる手段を与えたものである(最判昭41.10.26 全逓東京中郵事件)。
3 労働基本権の制限
労働基本権は、社会の共同生活を前提として成り立っている権利である。仮に、労働基本権を制限し得ないとなれば、矛盾・衝突が生じ、社会の共同生活の維持が図れなくなる。そこで、矛盾・衝突の調整の原理である憲法13条の「公共の福祉を」を根拠に、
労働基本権は制約され得るものとなる。
4 公務員の労働基本権
公務員は、公務の円滑な運営のため一般国民とは異なる制約に服している。
警察職員、消防職員、自衛隊員、海上保安庁又は監獄に勤務する職員は、労働三権の
すべてが否定されている。
非現業の公務員は団結権が認められているが、団体交渉権が制約され、争議権が否定
されている。
郵便等現業の公務員は争議権が否定されている。
つまり、争議権については、公務員は一律に禁止されている(国公法98条2項、110条7項17号、地公法37条1項、61条4号)。
5 設問の検討
公務員の争議権を禁止する規定は、以下の理由により合憲である。
公務員の職務には、特殊性と公共性が認められることから、公務員に争議権が認めら
れると、公務の停滞によって、国民全体の利益に重大な影響を及ぼす。
公務員の勤務条件は、国会の制定する法律や予算によって定められるものであるため
公務員が政府に対して争議行為をを行うことは、国会の議決権を侵害するおそれがある。
公務員の争議行為は、私企業の場合と異なり、市場による抑制力が働かない。
制度上、人事院制度によって整備された代替措置が講じられている。