『かげろふの日記遺文』は、室生●星によって書かれた物語で、昭和三十三年七月号~三十四年六月号までの「婦人之友」に十二回(一年間)連載された。室生●星はもともと詩人でありながら、三十歳から小説も書き始めた人物である。彼の主な作品には、詩集の『叙情小曲集』や、小説に『あにいもうと』
・『杏っ子』などがある。
堀辰雄によって発表された『かげろふ日記も原作を基に執筆されたが、こちらは日本の古い女性の生涯が描かれており、原作の歌や旅行、自然の描写、日常生活の細部の描写などは削られている点に特徴がある。
『かげろふ日記遺文』は、原作の『蜻蛉日記』を基に書かれた。それと比較して違う点は、原作では主人公(ここでは紫苑)である作者を中心とした記述であるのに対し、『かげろふ日記遺文』は「町の小路なる女」(ここでは冴野)に焦点を当てている。原作ではわずか数行しか記載されていない「町の小路なる女」について、原作にはない人間像を中心に描いているのが大きな特徴である。「町の小路なる女」は、室生●星の生母を面影として描写されている。
原作の『蜻蛉日記』は、作者である藤原道綱母の十九歳頃から二十年を超える日記で、...