ドイツ税制改革について

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    2005年11月、アンジェラ・メルケル氏が首相に就任した。メルケル政権は、連立協定に基づき、ドイツ経済の建て直しとEU協調のための税制改革に着手することになった。
    税制改革は、2006年度に「雇用と景気促進のための税制改革」と「欧州会社課税導入法」、2007年度に「国家財政健全化のための税制改革」「事業承継優遇税制」と「EU法との調整に係る企業組織変更税法」、2008年度に「企業税制改革」が行われた。そして2009年度に「投資所得一元課税改革」と、プログラムされた。
    当初税制改革プログラムでは、投資所得一元課税改革が行われる予定であったが、投資商品を扱う金融業界の準備状況に鑑み、1年遅れの2009年1月1日施行へと持ち越されることになった。
    1990年の東西ドイツ統一後発生した財政赤字に対し法人税に係る連邦付加税の導入、付加価値税率の引き上げによる対応が行われたが、2001年のITバブルの崩壊による景気低迷と失業率の悪化により、2002年には、マーストリヒ条約基づいた基準を満たすことができなくなった。その結果として、当時のシュレーダー政権は信任を失い、メルケル政権が発足することになった。メルケル政権では上記問題の解消のため、付加税率の更なる引き上げと、企業立地競争力の強化の観点からの企業税率改革がマニフェストとして掲げられた。特に企業税制改革について、長期的には増税につながる制度改革が目標とされている。
    ドイツの社会保険財政は、2000年以後、危機的状況となった。その第一の要因は、中高齢者に早期退職を促す制度をとってきた反面、少子化が進んだことによって制度的欠陥が顕現したことにある。第二の要因は、ドイツ統一により、旧東独地域にも旧西独の社会保険給付が適用されることとなったが、もともと社会主義国であった東独地域の国民は、社会保険料を支払ってこなかったため、旧西独の保険準備金を充当せざるを得なかったことにある。これら二つの要因から、年金・医療保険財源に膨大な赤字が生じ、これを解消するため、リースター年金制度により、老後資金形成契約を導入し、またこれを補完するためリュールップ年金制度により、基礎年金契約という個人年金契約を導入したところ、投資所得に関する所得税制度が、以下に述べるようにまちまちであったため、課税の不公平が生じてしまった。そのため、投資所得に対する所得税法の改革が求められていたのである。
    EU経済圏の拡大とは裏腹に、加盟各国の事業体法制や課税制度はまちまちであった。そこでEUではモデル事業体法としてSE法を策定し、どのようなものかを検討する必要が生じた。
    今回の企業税制改革は、財政赤字の解消を目的の一つとしてプログラムされたものであることから、2009年度に予定されている投資所得一元課税改革と相まって、企業投資が促進されることにより、税増収が期待されている。
    ここでは、減税項目として一つ目に法人実効税率の引き下げがある。法人税の名目税率の引下げと営業税の損金不算入により、法人実効税率を30%以下に軽減することが企図されている。まず、法人税率を25%から15%に引き下げる。次に、ラント税である営業税の標準税率を5%から3.5%に引き下げる。これらの軽減措置により、結局、法人の租税負担率は29.825%に軽減されることになる。
    二つ目に人的会社と物的会社の衡平(EU法との調整)がある。人的会社の構成員に対する所得税の平均的な実効税率は、47.44%に達するといわれてきた。この制度は、個人事業者と人的社会の構成員とを中立的に取り扱うことを目的としてきたといってよい。これに対して物的社会の留保所得に係る実効税率は、今回の法人減税の結果、29.825%程度に減税される。このままでは人的会社を選択した場合と物的会社を選択した場合とで、所得課税が中立的でないため、企業の事業体選択にバイアスが生じてしまう。そのため、人的会社の留保利益に対しても、28.25%の優遇税率を適用し、さらに人的会社からの分配利益については、個人所得税の分類における資本収益税として源泉所得税率25%を適用する改正が行われ、これにより人的会社と物的会社とでは、分配利益についても留保利益についてもほぼ同じ所得課税制度となる。ただしこの結果個人事業者と人的会社の構成員との間での課税の中立性は損なわれる事となる。この改革はEU法との調整という観点が強く影響したものと窺われる。
    続いて、増税項目である。一つ目は営業税に係る改正である。営業税は、連邦税たる所得税や法人税の課税所得計算にあたって、損金として控除することが認められてきた。ところが、今回の企業税制改革により、営業税の損金算入は一切みとめられなくなった。営業税の課税標準金額は課税所得に一定の加算・減算をしたものであるが従前は減算対象とされていた一定の項目は今回の改正により加算対象とされた。これにより、営業税の課税標準金額は実際には相当に増加し、結果的に増税になると見込まれている。
    二つ目は利子控除枠の設定である。所得税法および法人税法の改正により、支払い利子の必要経費・損金算入に一定の限度額が設定される。この限度額を「支払利子控除制限枠」という。この新制度は個人事業者、人的社会、物的社等、すべての企業における借入額に適用される。
    三つ目は法人に係る繰越欠損金の適用条件の厳格化である。欠損金の承継が認められるためには組織再編等によっても法人の法的同一性および経済的同一性が認められることが要件とされてきた。上記欠損金承継ルールは、2008年度改正により、より厳格化され、専ら持分の変動のみを基準とする経済的同一性が認められる場合にのみ限定された。
    四つ目は減価償却の制限である。減価償却については定率法を廃止し、定額法に一本化された。ただし、残存価額なしの100%償却が認められる。
    その他の改正は、関係会社間の移転価格設定の適正性については事業者において課税庁に対する資料提出義務と、その適正性に関する立証責任が課されているが、さらにEU法との調整が行われた。また、組織再編税制についてもEU法との調整が行われた。
    投資所得一元課税改革が、2008年度企業税制改革と平行して検討されていたが、2009年1月1日から施行されることになっている。なお、所得税率は、15%から42%までの方程式による累進税率である。
    投資所得一元課税改革の主な内容は2つある。1つは投資所得に対する源泉分離課税制度の導入である。従前の所得税法20条によれば、利子および配当からの所得のことを資本財産所得という名称で資本収益を課税対象としていた。これに対して有価証券の譲渡益については、保有期間が1年未満の場合についてだけ総合課税、1年以上であれば非課税とされてきた。ところが、公的年金財政が悪化し、2001年度の年金制度改革により、老後の所得確保について自助努力が求められるようになったことに伴い、金融自由化が進められ、投資に関連する個人所得に関する上記のまちまち課税制度が、不合理な課税不公平を引き起こしているという批判が強くなっていた。そこで、投資に関連する個人所得課税に係る税制改革を2009年度に施行した。この結果、資本財産所得の中には、新たに有価証券に係る譲渡益が加えられ、投資に関連する所得が一括されることになった。
    投資所得に対する所得税は、原則として、他の所得と分離され、金融機関等により25%の税率で源泉徴収納付される。この源泉分離課税の対象とされる投資所得は、グロスの収入金額とされており、実額の必要経費控除はできない。ただし、投資所得については課税最低限として、日本における所得控除に類するものである、特別支出が控除される。これに対して納税義務者はすべての投資所得を一括届出することで総合課税を選択することができる。もう1つは配当課税所得の計算に係る部分所得課税方式の導入である。配当所得課税について法人税との二重課税の調整が行われるインピュテーション方式が適用されるドイツ人投資家と、この制度のないEU諸国の投資家との中立性を欠くことから、インピュテーション方式が違憲と判断され、法人税との二重課税排除の方式として半額所得課税制度が採用されてきた。その後2009年の改正で、配当金に係る課税所得の算定にあたっては免除役割を40%に減らし、その60%を課税所得とすることができるようになった。
    以上の税制改革は経済活性化の促進を目的とした企業と投資家の両面にわたるものである。またこの税制改革は一時的な税率軽減や諸控除の増額を図るものではなく、所得税法における投資所得課税と法人税法における法人所得の計算に係る構造改革を行っている点で、ドイツ経済が好転してきた段階では相当の増税効果を持っている。
    しかしこの改革にも問題点が2つある。1つは投資所得課税に係る執行上の問題である。もう1つはEU城内非居住投資家とドイツ投資家の間で投資所得に係る租税負担に差が生じた場合、EU城内投資環境に係る租税の中立性に違反するという批判が生じないかどうかという問題がある。これらの問題が発生するかどうか、またその際にとるべき施策はいかなるものかについては今後も注視しておく必要がある。
    考察
    環境税を引き上げて環境負荷の削減を促進するとともに、その税収を年金財政の補填として年金保険料を減額し、雇用コストの引き下げによる雇用の促進を同時に達成するという環境税制改革(ETR)は、1980年代から欧州で始まった。シュレーダー政権は、1999年にエネルギー税率を2000年から2003年まで毎年引き上げる一方、年金保険料...

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