未遂の教唆
【問題となる具体的場面】
Aは、スーパーマーケットの金庫がからであることを知りながら、Bに金庫内の金銭の窃盗を教唆した。Bは金庫のある部屋に入って金庫に手をかけたところ、ガードマンの足音が聞こえてきたので、Bは犯行をやめて逃走した。Aの罪責はどうなるか。
一.問題の所在
まず、未遂犯と不能犯の区別における具体的危険説から、Bには窃盗未遂が成立する。
ところが、それを教唆したAは、Bが金銭の窃盗をするという結果が発生することを認識していない(金庫がからであることを認識している)。それでも、Aを窃盗未遂の教唆犯として処罰できるか。つまり、教唆の故意の内容として結果発生の認識まで必要かが問題となる。
二.判例・学説の整理
【学説】
①可罰説
・刑法は人に構成要件に該当する行為をさせて法益侵害・危険を生じさせることを禁止していると解せる。
∴教唆の故意は、正犯が実行行為をなすであろうという認識があれば足りる
=未遂の教唆は可罰である
②不可罰説
・教唆の故意の要件を正犯に対する犯罪行為意思の惹起の認識・予見とともに、
既遂惹起の意思が...