w0779 介護の基本

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    資料の原本内容

    「認知症高齢者と家族を支えるケアについて述べなさい。」
     認知症とは、「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じた後天的な脳の器質的障害により、獲得した知的機能が持続的低下し、日常生活や社会生活が営めなくなった状態である」と定義されている。
     認知症の原因疾患
     認知症の原因となる主な疾患や障害には、アルツハイマー病や脳血管性認知症、レビー小体型認知症、ピック病、感染性疾患、外傷性疾患、内分泌代謝性疾患など様々なものがあるが、この中でも代表的な疾患は、アルツハイマー病と脳血管性認知症で、両者で老年期における認知症のおよそ8割を占めている。
     アルツハイマー病は、初老期(65歳以上)から老年期にかけて発症し、認知症に加えて、人格の変化や随伴精神障害を伴い、比較的緩慢に進行する認知症疾患をいう。原因不明の脳の委縮によるもので、以前は初老期に発病するアルツハイマー病と老年期に発病する老年性認知症とは別の疾患とされていたが、現在は同一疾患と考えられ、アルツハイマー病と総称して呼ばれている。
     最初に気付くのは「物忘れ」である事が多く、即時記憶・短期記憶の障害が主に顕著に表れ、病状の進行とともに長期記憶障害が現れ、記憶力・見当識・判断力の低下が次第に強まっていく。しかし、身体が覚えている動作「手続き記憶」や感情反応は病気が進行しても保持されるも末期には重度の認知症となる。
     脳血管性認知症は、脳の動脈硬化や心臓、頸動脈などに生じた血栓により、脳梗塞や脳塞栓、脳出血等を起こし、その血帯に養われていた脳組織が損傷を受け障害を引き起こす認知症疾患をいう。2か所以上生じた梗塞による場合には、多発性梗塞性認知症と呼ばれている。
     脳血管性認知症は、意識障害が生じるが、礼儀や規範と言った社会的人格は認知症が深刻になるまで比較的保持される。意識の病と言う側面があると言われている。脳血管障害が原因であるために、認知症状のほかに片麻痺、言語障害等の局所神経症状を伴い、本疾患は脳卒中の発作を繰り返しながら段階的に認知障害が悪化していく事が多い。また、脳血管性認知症の人は、日や一日の中で、時折、覚醒度のムラが生じる。感情のコントロールが出来ず、感情や情動、認知レベルにも影響し、感情失禁やまだら認知の状態になる事もあり、周囲を困惑させることがある。
     認知症の中核症状と周辺症状
     認知症は記憶障害、見当識障害(日時や場所がわからない)、思考障害等が現れる。しかし、中核症状の一部には脳障害から引き起こされたとは言えない廃用症候群が含まれることもある。廃用症候群とは、医学的には機能低下が見当たらず、使用しない故に機能低下が加わり元に戻せず、変化が生じる場合をいう。例えば、脳卒中での片麻痺、リハビリ放棄により筋力の衰えや関節が拘縮し寝たきりとなるといった、廃用症候群が中核症状の一部を占めている。
     また、物盗られ妄想や幻覚妄想状態、昼夜逆転による不眠、抑うつ、不安や焦燥感等の精神症状、徘徊や不潔行為、異食、収集癖、攻撃性等と言った行動障害まで様々な症状が現れる。これらの症状は、中核症状に心理的、状況的要因が加わり、二次的形成によって引き起こされる。つまり認知症を病み、中核症状がもたらす不自由を抱え、自分自身が困惑した結果であると考えられる。
     例えば、物盗られ妄想は、自分で物を置いた場所を忘れ、探している内に「盗られた」となる、記憶障害の二次的帰結で、置いたところを忘れた人全てが物盗られ妄想になるわけではない。
    時に、激しい周辺症状を示す人とそうでない人がいる。周辺症状は、①認知症の種類や進行の加速度、合併症の有無等の病側の要因②病を抱えた当人の人柄や生活史等の個人的要因③今の状況や生活環境等の状況的要因、から生成されていると考えられる。
    認知症高齢者のケア
    認知症の随伴症状や行動障害は不安や失望、怒り等から引き起こされる場合が多い。認知症の基本症状である記憶や認知の障害は残存するが、人間関係等の周囲環境、適切なケアを行うことで、行動障害の予防が可能である。認知症の人は、自分の人格が周囲から認められず、つらい思いをしている。認知症の人にこそ、その人の生活力や潜在能力を周囲が大切にし、人格の尊重、ニーズの理解・価値を見失わないよう。認知症高齢者の尊厳保持をケアの基本としなければならない。
    また、以前は、認知症の診断や病気の説明は家族のみに行い、本人には事実を告げていない事が多かったが、早期発見・早期予防する意味でも本人にも告知する必要がある。認知症を否定的に捉えず、本人への共感や受容、信頼出来る関係性を築き、維持に努めなければならない。   そこで新しい認知症ケア、センター方式が開発された。認知症高齢者のケアは、一人ひとりの生活史や現在の暮らしぶりを把握する必要がある。そこには、一人ひとりの固有の物語があり、その物語を読み解き、理解するという関わりが求められている。認知症の人とケアを提供する側との関係性、ケアの提供側がケア方針を共有することを重視している。
    認知症高齢者を抱える家族のケア
    認知症は記憶障害が進行していく一方、感情やプライドは残存しているため対応が難しい。家族が認知症を発症したことで、家族全体が混乱に陥り、近所の人に認知症を患っている事を知られたくないという思いから認知症高齢者を家庭内に閉じ込め、将来に不安を感じながら生活に奮闘している現実がある。家族の認知症に関する知識と理解が不十分なため、重度化するまで受診や治療が成されない結果、高齢者虐待や早期の施設入所といった問題が生じ、両方が傷ついてしまう。また昨今、老老介護も増加し、介護する側、される側両方が認知症という状態も少なくない。認知症援助は、家族介護者への支援を視野に、家族の生活の質を保ち、安定した認知症支援が認知症高齢者の良いケアを実現する条件でもある。そのためには、身近な相談機関である地域包括支援センターやケアマネージャ等に早い段階で相談する事が必要である。認知症高齢者を地域社会で見守り、デイサービスやショートステイ等の介護サービスを利用する事で、介護者自身も日々の疲労からの解放、精神的余裕が生まれるが、施設利用は在宅介護の失敗や挫折と言った罪悪感を覚える家族もある。家族介護には、家族にしかできない情緒的ケア・体験の共有があり、高齢者にとっても一番安心できる場である。家族介護を今後も継続していく為にも、施設利用を進めることも必要である。
    認知症ケアは長期間に及び終わりが見えない。家族にとってケアそのものが生活の一部となる。安定したケアを継続するには、介護者の休息、家族内での役割分担や介護サービス等の支援を認知症高齢者及び、家族の生活の中に上手く取り込み、家族に対する受容と共感する事も重要であると考える。近隣の人々などのインフォーマルなケアや認知症への正しい理解や啓発、地域で安定したケアの体制づくりも必要である。
    また、認知症高齢者の家族同士による、介護の工夫や情報交換、介護者としての悩みや苦労を共有し相互に支え合う場は、安定した介護をする上で大いに役立ち、認知症高齢者の家族会の活動は重要な支えにもなる。こうした家族会の支援も援助の役割の一つでもある。
    参考著書
    『認知症とは何か』
    小澤 勲著 
     2005年 岩波新書
    『改訂版 高齢者福祉論』
    村川 浩一・坪山 孝
    黒川 研二・松井 奈美 
    編著
    2006年 第一法規
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