本レポートでは、医療分野への株式会社の進出例を元に、非経済・非営利分野への株式会社参入がもたらすメリット・デメリットを比較・考察することにしたい。
株式会社について検討するとき、医療法人のような非営利法人と異なり、株式会社は出資者(株主)への利益分配をその存在目的の一つとしているということは見過ごしてはならない大前提である。従って、株式会社が病院を経営する時、その経営活動は株主の利益を最大化するように行われるはずである。つまり、病院の運営は支出を最小化しつつ収入を最大化する、換言すれば?無駄な経費を切り捨て、?医療報酬を最大化するように行われるのではないかと考えられる。
このうち、?無駄な経費の切り捨ては、メリット・デメリットを併せ持っていると考えられる。少子高齢化が進行し、医療福祉分野の予算が膨張する一方で、納税者人口は減少してゆくであろう我が国の財政事情を勘案すれば、医療分野への株式会社の進出がもたらすメリットは決して小さくないはずである。しかし、その反面、医療という分野が持つ特性と、コスト削減という営利的な方針が上手くマッチするか否かは首を傾げざるを得ない。例えば人件費を抑えようとする余り、看護婦や医師の配置数が必要十分な人数を下回り、彼らを過酷な労働条件の下で働かせるような事態が生ずるならば、患者に提供する医療の水準が低下してしまうであろう事は想像に難くない。
医療分野への株式会社の進出について
(1)はじめに
講義でも取り上げられているように、近年、大学・農業・病院など、非経済・非営利とされる分野への株式会社の進出が顕著に見られる。従来、こうした分野は大学であれば国立大学法人や学校法人、農業であれば農業法人、病院など医療機関であれば医療法人が担っていた。これらのような、各々の分野を担うための法人格がもともと存在するにもかかわらず新たに株式会社の参入が認められるからには、これらの分野において株式会社ならではの付加価値が存在するはずである。しかし、株式会社ならではの弊害も存在することが容易に推察される。そこで本レポートでは、医療分野への株式会社の進出例...