『昭和天皇』を読んで

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    『昭和天皇』を読んで
     1986年11月23日、昭和天皇は、宮中祭祀の一つ、新嘗祭に出席した。御年85歳の昭和天皇にとって、この祭祀に出席することは体力的にも非常に困難を要するものである。それにもかかわらず、天皇は宮中祭祀にこだわり続けた。天皇は、なぜここまで祭祀へこだわりつづけたのか。そして、祭祀のたびに何を祈っていたのか。検証していきたい。
     生前、昭和天皇は一貫して祭祀に熱心だったわけではない。皇太子時代の1921年、ヨーロッパ訪問の折、英国の王室から影響を受け、「お濠の内側」での従来の宮中祭祀とは別の、「お濠の外側」での大規模な儀礼に積極的に姿をし、さらにその後、「お濠の内側」の事情である、宮中の近代化をも目指す姿勢も見せていた。
     ただし、この時期が祭祀を特段軽視していた、というわけでもない。むしろ、成年式直後から早くも明治天皇祭に出席し、以後祝祭日のたびに祭祀に出席した姿勢は、明治天皇・大正天皇の消極的な態度と比べて積極的ですらあった。こうした先代の天皇達との姿勢の違いは、昭和天皇が受けた教育から窺える。一つに、当時の南北朝正閏論争の末、血統に代わる正統性の根拠として「三種...

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