刑事訴訟法 候補問題解答案①
~任意捜査~
(1)Xに対する取調べの適法性
本問では、Xが平成9年11月10日から17日まで参考人として、18日からは被疑者として取調べを受けている。
具体的には、Xは連日午前9時から午後10時まで取調べられ、最初の2日は乙山病院に宿泊し、その次の2日は警察官宿舎の婦警用の空室に宿泊し、その後はビジネスホテルに宿泊している。その間、Xは常時監視下に置かれていた。
かかる捜査は刑事訴訟法197条第1項及び223条第1項に基づいて行われており、任意捜査である。そこで、任意捜査の一環として、Xに対して行われた連泊を伴った取調べは許容されるか。任意捜査の限界が問題となる。
思うに、任意捜査は、強制処分に該当しないだけでなく、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を考慮して社会通念上相当と認められる方法ないし様態及び限度において許容される、と解する。
本問では、犯人が被害者と何らかの関係を有するものである可能性が高いことから、被害者と同棲していたXを捜査する必要性は認められる。捜査に対するXの任意性の点に関しては、連泊を伴い、Xが常時監視下に置かれていることから、問題となる。事案で、Xは宿泊斡旋要望の書面等は出されておらず、また、取調べ及び宿泊を拒否していないことから、任意性がないとは言えないと考える。
以上より、当該取調べは相当性があり、適法なものとして許容される。
(2)X作成の上申書及び自白調書の証拠能力
証拠能力とは、証拠として採用できる資格を言う。本問では、X作成の上申書(以下、本件上申書)及び自白調書(本件自白調書)が刑訴法319条の言う「任意にされたものでない疑のある自白」に基づくものかどうかで証拠能力が認められるか決せられる。
自白の証拠能力の判断基準に関する見解について、虚偽排除説と人権擁護説を合わせた「任意性説」が存在する。しかし、被疑者の主観面の認定が困難となり主観面のみによる判断は妥当でない。
そこで、違法な手続で取得された自白は排除される、と解する(違法排除説)。なぜなら、自白の取得過程に令状主義を損なうような重大な違法が存在し、これを証拠として許容することが将来における違法捜査の抑制の見地からして相当でない場合に証拠能力を否定する違法収集証拠排除法則を自白の場面に適用したものと考えられるからである。
以下、違法排除説を基に本問を検討する。
1 本件上申書について
本件上申書は、常時監視下に置かれ、連泊を伴った取調べの末に作成されたものである。上記(1)で取調べ自体は適法であるとの結論に達したが、証拠能力の有無は違法捜査抑制の見地から考えると、事実上の身体拘束に近い状態で作成されたもの言えるので、取得手続に重大な違法があると言える。よって、本件上申書の証拠能力は認められない。
2 本件自白調書について
本件自白調書の前後にXは否認をしている。その点から考えると本件自白調書はXの任意に基づいてなされたかは極めて疑わしく、任意性がないと判断される。任意性のない中で取得された本件自白調書は手続に重大な違法があると解される。よって、本件自白調書の証拠能力は認められない。
以上