宮崎駿「魔女の宅急便」論―なぜキキはデッキブラシで飛んだのか
ブラシとほうきの違い――才能を「磨く」
キキが初めに飛ぶのは箒である。そして一時的に飛べなくなり、再び飛ぼうとするとき、箒ではなくデッキブラシを選ぶ。母から受け継いだ箒を折ってしまったので、代わりにブラシを使った、という自然な流れにみえるが、よく考えれば不自然である。キキは自分でも箒を作れるのに、エンドロールを見てもブラシのままだ。ブラシで飛ぶことには、どういう意味があるのか。
そもそも二つはどう違うのか。
箒は埃やゴミを「掃き出す」ものだが、ブラシは力を加えてゴシゴシと「磨く」道具である。箒でゴミを取り除いたあとに、床やタイルを磨き上げて、本来の美しさを取り戻すのがブラシである。対外的な「掃き出す」行為に対して対内的な「磨く」行為を求める。それは高次的、二次的な作業で、労力を要する。まるで己の才能や能力を「磨く」ように。
キキはスランプに陥るまで、「どうやって飛ぶかなんて考えもしなかった」、とウルスラに話す。これまでは、「魔女の血」という与えられた資質だけで能力を発揮できた。しかし年上のウルスラは、才能に伴...