江戸の浮世絵師、葛飾北斎と歌川広重の名所絵(風景画)を比較し、それぞれの特徴を述べなさい。名所絵の人気の背景にある「旅」の流行などもふまえ、作画上の意識や工夫について思うところを述べなさい。
葛飾北斎は、江戸時代の化政文化を代表する浮世絵師の一人である。あらゆる事物・現象を何でも描き、生涯に三万点を越す作品を発表し、版画の他に肉筆画でも優れた作品を出した。さらに、読み本の挿絵芸術にそれまでのものとは違った新しい工夫ややり方を打ち出し、「北斎漫画」をはじめ、絵本を多数発表して毛筆によって形を描き出すことに敏腕を奮った。絵画技術の普及や庶民教育にも利益を与えるところが大きかった。葛飾北斎は「葛飾派」の祖となり、ゴッホなどの印象派絵画の色彩にも影響を与えた。
それでは葛飾北斎の作品をいくつか挙げてみる。
①「富嶽三十六景」
天保四年頃に完結したシリーズで、四十六枚から成る富士山を中心とした風景画で構成されている。葛飾北斎の代表作として知られ、「凱風快晴」(赤富士)や「神奈川沖浪裏」が特に有名である。「神奈川沖浪裏」を見たゴッホは手紙で賞賛し、ドビュッシーが交響詩「海」を作曲した等、海外の芸術家に多大な影響を与えた。波頭が崩れる様は一見表現的に見えるが、写実的な筆致である。
②「富嶽百景」
富士山を題材とした絵本である。この絵本は、当時の風物や人々の営みを巧みに交えたものが描か...