日本語は「あいまいな言語」だ、といわれることがある。しかし私はそうは思わない。なぜならそれは、欧米的なものさしで日本語を測ろうとしているにすぎないからである。たとえば食事に誘われたが行きたくない場合、どう答えるだろうか。たいていの日本人は「行きたくありません」とは言わずに、「すみません、今日はちょっと約束があるので…」などと謝罪や理由を述べる言葉で断るだろう。また相手もそれを聞いただけで、言葉の裏にあるものをなんとなく察し、無理には誘おうとはしない。このような日本語特有の言い回しは、日本語があいまいなのではなく、直接的な表現を好む欧米人と比べた結果、日本人は婉曲的な表現を好む傾向があるというだけのことなのある。そして、日本では直接的表現があまり必要ではなかったのだ。
それにはこの国の環境、歴史が深くかかわっている。日本はアジアの東端に位置する列島であり、外敵、異民族はたやすく侵入してこない。その意味で、安全で安定した土地である。また、日本はモンスーン地帯に属して湿度が高く、雨が豊富である。強烈な雨風はまれであり、日本人は3ヶ月で廻る四季の移り行きを味わい楽しむ。このように日本は自然条件にも恵まれた暮らしやすい土地なのである。
この小さな島国に一万年以上も定着し続け、農耕という共同作業を主とする社会生活を営んできた結果、集団主義的意識が定着し、日本人の温和な気質が育まれた。農耕において重要なのは個人の能力ではなく、みんなで力をあわせたときに何ができるかということであったのだ。そしてそこでは相手の気持ちを重んじるコミュニケーションがなされ、直接的な表現よりも間接的・婉曲的表現が好まれた。また、共同作業は住人同士の付き合いを親密化させ、互いの気心が十分に知り合える環境をつくりあげた。
日本語と日本の地理
日本語は「あいまいな言語」だ、といわれることがある。しかし私はそうは思わない。なぜならそれは、欧米的なものさしで日本語を測ろうとしているにすぎないからである。たとえば食事に誘われたが行きたくない場合、どう答えるだろうか。たいていの日本人は「行きたくありません」とは言わずに、「すみません、今日はちょっと約束があるので…」などと謝罪や理由を述べる言葉で断るだろう。また相手もそれを聞いただけで、言葉の裏にあるものをなんとなく察し、無理には誘おうとはしない。このような日本語特有の言い回しは、日本語があいまいなのではなく、直接的な表現を好む欧米人と比べた結果、日本人は婉曲的な表現を好...