はじめに
『龍の子太郎』は国際アンデルセン賞を受賞し、ほか数々の賞に輝いている。また、米・仏・露、そのほかの国々で翻訳され、日舞・演劇、テレビや映画化などの様々な形で子供たちに愛されてきた。なぜここまでいろいろなものに形を変え愛されてきたのか、それを私は次のように考える。
龍の子太郎は信州の二つの民話という、深く古い人間の歴史の中で築きあげられてきたものがベースになっている。そして書かれている当時の時代の流れもまたこの物語に深く関係している。では、この二つの事がどのように物語とつながっているのかこれから考察していこうと思う。
民話
まずは長野県上田市塩田平に伝わる小泉小太郎(竜の小太郎)の内容を見ていく。
昔、鉄城山(独鈷山の主峰)の頂に寺があり、その寺に修行中の若い僧がおりました。いつの頃からか、その僧のもとに毎夜美しい娘が通ってくるようになりました。 娘は真夜中にどこからともなくやってきて、どこへともなく去って行きます。不思議に思った寺の住職が、ある夜こっそり娘の着物の裾に、糸を通した針をつけておきました。 夜が明けて住職が糸をたどっていくと、沢をおり川の上流へと続いて...