丙は乙の背任的意図について悪意であり、このような丙を保護する必要はないといえる。
そこで、取引の相手方が悪意の場合に法律行為の効果を否定し、本人を保護するための法律構成ができないか、問題となる。
この点、「本人のため」(99 条1 項)とは本人に法律行為の効果を帰属させるための意思をいうが、代理権濫用の場合には、法律行為の効果を本人に帰属させる意図はある。よって、93条但書を直接適用することはできない。
しかし、経済的利益の帰属に着目すると、代理人の意思は本人の利益を図る点にはなく、自己の利益を図る点にある。この点について心裡留保と類似の構造がみられる。したがって、93 条但書の類推の基礎はある。
そこで、93 条但書の類推適用により、相手方が代理人の背任的意図について、悪意または有過失の場合には代理人のなした法律行為の効果は本人に帰属しないと解する(判例に結論同旨)。
民法課題レポート 1
1.問題
甲は自己所有の A土地を売却しようと考えていたが、なにぶん不動産取引の経験がないため、そ
の方面に詳しい友人の乙に、A土地の売却に関する代理権を与え、当該土地を代わりに売ってもら
うことにした。
しかし、乙は借金で首が回らなくなっていた。そこで乙はこの機会をいいことに、代金を着服す
る目的で A土地を丙に売却し、登記を移転した。なお、丙は乙の意図を知っていた。
丙は A土地を事情の知らない丁に売却した。甲は丁に対して、A土地の返還を請求している。こ
の請求は認められるか。
2.回答
1 甲が丁に対して A土地の返還請求をなし得るためには、甲が所有権を有していることが必
要である。
2(1) しかし、丁は代理人乙を通じて、A土地を譲り受けた丙から土地を譲り受けており、A土地
を承継取得しているように思える。
そこで、丁の承継取得の有無に関し、乙が代金を着服する意図でした乙丙間の売買契約の
効力が問
題となる。
(2) この点、乙は A土地の売却という甲から与えられた代理権の範囲内で行為しているところ、
その行為を無権代理と解することはで...