2(1) 中止犯が成立するには、a実行の着手があること、b結果の不発生、c自己の意思により、d犯罪を中止したことが必要である。
(2) 以上の点を踏まえて、本件を検討する。
(3) まず、甲はA を殺そうとしてピストルを発砲したから、実行の着手がある(要件a充足)。また、A は病院に運ばれて、一命を取り留めたのだからA 死亡という結果は発生していない(要件b充足)。
では、甲がA を病院へ運んだという行為は自己の意思によるものか。その意義が一義的に明らかでないため問題となる。
(4) 思うに、中止犯における刑の必要的減免の根拠は、行為者の責任が減少したことによる。
そうだとすれば、「自己の意思により」とは、悔悟などの倫理的動機まで必要とされるようにも思える。
しかし、刑法的非難は道徳的非難とは別のものである。
したがって、倫理的動機までは不要であり、「自己の意思により」とは、外部的障害がないのに、行為者が自発的意思によって中止行為をすることと解する(主観説)。
すなわち、行為者が中止にあたって、「たとえできるとしても欲しなかった」場合に任意性があり、「たとえ欲したとしてもできなかった」場合には任意性がないと解する(フランクの公式)。
刑法課題レポート 2
1.問題
甲は Aを殺そうとして、Aに対してピストルを発砲し重傷を負わせたが、Aのあまりに苦しむ様子
を見てかわいそうに思い、速やかに Aを病院に運んだ。その結果、Aは一命を取り留めた。この場
合の甲の罪責につき論ぜよ。
2.回答
1 本件では、甲は Aを殺そうとして、Aに重傷を負わせたが、その後 Aを病院に運び、その結
果、Aは一命を取り留めている。そこで、甲に殺人未遂罪(203 条)の中止犯(43 条但書)が成立す
るか問題となる。
2(1) 中止犯が成立するには、①実行の着手があること、②結果の不発生、③自己の意思により、
④犯罪を中止したことが必要であ...