1.はじめに
上田秋成によって書かれた雨月物語は、怪異小説であると言われている。しかしこの物語の注目すべき点は、単なる怪異の描写にとどまらず、純粋な人間像の追求が根底を流れている点である。今回のレポートでは雨月物語の中から、再会の約束を交わす『菊花の約』と『浅茅が宿』の二作品を取り上げて、左門と宗右衛門、勝四郎と宮木の間で交わされた約束のそれぞれにとっての意味を考察たい。
2.菊花の約――自害して果たされた約束
菊花の約は、『古今小説』の「范巨卿鶏黍死生交」を元につくられた話である。儒学者・丈部左門と再会の約束を交わした流浪の武士・赤穴宗右衛門は、彼との約束を果たすために、「魂よく一日に千里をもゆく」と、自殺してまで左門に会いに来る。
多少期日に遅れたとしても、生きているからこそ再会が喜ばしいのである。また、左門の母が左門をたしなめて言ったように、道のりは長く、さらに江戸時代の旅は現代の旅行とは違って危険が多かったことを考慮すれば、宗右衛門といえども期日に遅れることもあっただろう。再会の念を再三押したとはいえ、従兄弟である赤穴丹治に監禁されていたという事情を知れば左門も宗右衛門を許したに違い
1.はじめに
上田秋成によって書かれた雨月物語は、怪異小説であると言われている。しかしこの物語の注目すべき点は、単なる怪異の描写にとどまらず、純粋な人間像の追求が根底を流れている点である。今回は雨月物語の中から、再会の約束を交わす『菊花の約』と『浅茅が宿』の二作品を取り上げて、左門と宗右衛門、勝四郎と宮木の間で買わされた約束のそれぞれにとっての意味を考察たい。
2.菊花の約――自害して果たされた約束
菊花の約は、『古今小説』の「范巨卿鶏黍死生交」を元につくられた話である。儒学者・丈部左門と再会の約束を交わした流浪の武士・赤穴宗右衛門は、彼との約束を果たすために、「魂よく一日に千里をもゆく」と、自殺してまで左門に会いに来る。
多少期日に遅れたとしても、生きているからこそ再会が喜ばしいのである。また、左門の母が左門をたしなめて言ったように、道のりは長く、さらに江戸時代の旅は現代の旅行とは違って危険が多かったことを考慮すれば、宗右衛門といえども期日に遅れることもあっただろう。再会の念を再三押したとはいえ、従兄弟である赤穴丹治に監禁されていたという事情を知れば左門も宗右衛門を許したに違い...