1.
法律行為論の伝統的見解のもとでは,民法 95 条が錯誤無効の要件とする「要素の錯誤」
に「動機の錯誤」は含まれない。これは,そもそも,「錯誤」が,「表示行為に対応する効
果意思が存在せず,かつ表意者自身がこれを知らないこと」と定義されるため,「表示行為」
と一致する「効果意思」があれば,それら2つの要素と「動機」との間で齟齬をきたして
いる場合でも,「表示行為」と「効果意思」の一致,つまり真意に対応する表示があるとい
えるので,法律行為の効力は否定されないと考えられるからである。
「要素の錯誤」とは,一言でいえば,法律行為の重要な部分についての錯誤という意味
である。大判大正 7 年 10 月 3 日民録 24 輯 1852 頁によると,この「要素」とは「法律行
為の主要部分を指称するもの」とされ,これは「各箇の法律行為に於て表意者が意思表示
の内容の要部と為」す,つまり,具体的な個々の法律行為に即して判断されるべきもので
あるとされ,「若し此点に付き錯誤なかりしせば意思を表示せざるべく且つ表示せざること
が……至当なりと認められるるものを謂う」,すなわち,錯誤がなかった場合
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法律行為論の伝統的見解のもとでは,民法 95 条が錯誤無効の要件とする「要素の錯誤」
に「動機の錯誤」は含まれない。これは,そもそも,
「錯誤」が,
「表示行為に対応する効
果意思が存在せず,かつ表意者自身がこれを知らないこと」と定義されるため,
「表示行為」
と一致する「効果意思」があれば,それら2つの要素と「動機」との間で齟齬をきたして
いる場合でも,
「表示行為」と「効果意思」の一致,つまり真意に対応する表示があるとい
えるので,法律行為の効力は否定されないと考えられるからである。
「要素の錯誤」とは,一言でいえば,法律行為の重要な部分についての錯誤という意味
である。大判大正 7 年 10 月 3 日民録 24 輯 1852 頁によると,この「要素」とは「法律行
為の主要部分を指称するもの」とされ,これは「各箇の法律行為に於て表意者が意思表示
の内容の要部と為」す,つまり,具体的な個々の法律行為に即して判断されるべきもので
あるとされ,
「若し此点に付き錯誤なかりしせば意思を表示せざるべく且つ表示せざること
が……至当なりと認められるるものを謂う」,すなわち,錯誤がなかっ...