デジタル化・ネットワーク化が
経済社会にどのような変化をもたらすか
デジタル化とネットワーク化の影響
デジタル化・ネットワーク化がもたらす影響について整理した上で、それらが企業活動におい
てどのようなインパクトを与えているかを民間企業の例を取って考察する。
まず、デジタル化によるメリットは情報の劣化を防ぐだけでなく、圧縮技術の適用や様々な情
報を付加して配信・収集することによる価値向上など、これまでのアナログとは異なる伝送形態
と管理を実現することが可能になる点であると考える。また、ネットワーク化については様々な
デジタル化された情報を地球規模で双方向的に伝送し、連携することで一つの情報を様々な手段
で配信することが可能になることを意味している。これにより情報の伝達手段と量が増加する一
方で、高い品質と短期間での配信という新たな要求が発生しており、技術が先鋭化すればするほ
ど活用できる企業や団体などのユーザーが投資額の増加と技術的な人材資源の不足によって限
定されてしまうという可能性を秘めている。
経済社会への影響
20世紀後半から企業は IT 投資を推進しているが、IT 化が一巡したといわれる21世紀とな
った現在においても売上高に占める割合が2001年の1.3%から2005年の2.8%と倍
以上の伸びを示している(2006年アイティアール調査より)。これは、IT 技術の上昇やニー
ズに向上によるものが大きいことは言うまでもないが、近年デジタル化された情報が複雑化し、
ネットワークで様々なシステムにつながることでインターフェースが増加し IT 投資を発生させ
ているという要因もあると考える。
具体的には企業においてトレーサビリティの強化などにより、これまでは完成品に対してのみ
保持していたデジタル情報が、これまでデジタル情報を保持していなかった部品に対しても行わ
れることによりデータトランザクションがネズミ算式に増加しているという現実がある。このよ
うな「情報爆発」的なデジタルデータの増加とそのネットワーク化によるトランザクションの増
加は情報の「見える化」を促進する一方で、情報の管理・維持工数の増加という新たな間接費増
加の要因となっている。また、テクノロジーの進化に伴い企業におけるこれらを活用する人材の
育成が追い付かず、デジタル化による投資の回収に見合った効果を企業として理解し享受するこ
とが難しい状況に陥っているのが現実である。
テクノロジーを活用し、サービスを提供する側におけるニーズのかい離
このようにデジタル化・ネットワーク化における影響は情報伝達の効率化や表現力の向上とう
プラスの効果だけでなく、それに伴うデータ管理工数の向上やトランザクションの増加によるハ
ードへの負荷向上など当初の想定以上の運用負担を強いている可能性が極めて高い。また、管理
する側の能力を超えたデジタル情報の活用や管理が難しい中、企業の経営層の多くがテクノロジ
ーに明るいわけではない現状では彼らを説得可能できる現場の人材の育成も急務である。
つまり、デジタル化・ネットワーク化を経済社会へプラスに作用させるためには、技術の革新
を追求するだけでなく、それらを導入しサービスを検討する企業の企画者の情熱と、経営層に価
値の理解、そして現場が使いこなせるインターフェースの開発など、具体的な導入の成功プロセ
スまで検討し実現・共有することがカギであるといえよう。
デジタル・ネットワーク社会におけるイノベーションのジレンマ
今後、デジタル化・ネットワーク化が進む中で、企業の多くはそれらを活用するにあたり、担
当者は炊飯器のようにだれもがそのメリットを理解し、享受できるプロセスをソリューションと
して要求される可能性は極めて高い。つまりデジタル化・ネットワーク化におけるメリットにつ
いて、企業として社内で理解してもらえなければ、多くの消費者が理解できる内容として実現し
てないことを意味している。このように新たなテクノロジーを必要とする社会において、企業が
容易に導入し活用できるようなプロセスを考慮しなければ、消費者側のニーズが実現されていく
陰で、社会経済では先鋭的な一部の企業へのテクノロジーと利益の集中を発生させ、全体では活
性化にはつながらない恐れをはらんでいるといえる。