問題
ものを判断したり態度を形成したり、あるいは行動を決定したりする場合、私たちは他者の言動からさまざまな形で影響を受ける。その結果、自分の行動を他者の言動に合わせる、または近づけることを同調という。これはあまりにも身近な現象であり、この同調行動を学問として純粋に測ることを最初に試みたのがアッシュであるが、アッシュの実験では答えが明らかな判断に対しての社会的影響を研究している(岡本,1995)。しかし日常生活においては、そのように単純な判断状況だけではなく、明瞭な答えのない複雑な判断状況も多く存在する。曖昧な課題に関する同調については、シェリフの自動運動に対する集団状況の効果の研究がある(堀・山本・吉田,1997)。本実験では、複数の個人が同一の対象について確信のもちにくい困難な判断を行おうとする時、他者の判断についての情報が提供されると、それが各人の判断にどのような影響を及ぼすかを検討する。 アッシュ (Asch,S.E 1951年 )は、 被験者 ひとりなら簡単に正解できる、「長さの同じものを判定する問題」において、 被験者 が回答を行う前に数人の サクラ が誤回答をすると、 被験者 の正答率が急激に下がることを証明した。
規範的同調と情報的同調
どうしてこのような実験結果が出てくるのであろうか?社会心理学的な観点からこの実験を解釈すると社会的影響のプロセスとして説明される。社会的影響というのは,他者の行動によって,あるいは単に他者が存在することによって,ある個人の中に変化が生じることを意味する概念である。ドイッチとジェラード (Deutsch,m.&Gerard,H.B.,1955)によれば,社会的影響はさらに規範的影響と情報的影響とに分類される。
①規範的影響…集団規範を遵守することによって,集団のメンバーとしての立場を維持し,他のメンバーとの人間関係上の報酬を得,罰を避けようという動機によって生じる個人の変化。つまり,他者や集団から予期される社会的報酬を獲得し,社会的罰を回避するために同調すること。一般に他の人々の意見に同意を示さないときには,メンバーからの冷笑,非難,拒絶,排斥といった形の社会的罰が予想され,同意を示すときには他のメンバーから好かれ,受容され,よい評価を受けるといった社会的報酬を得ることができる。自分がこの集団に魅力を覚え,メンバーとしてとどまりたいと思うならば,同調が生じるはずである。
②情報的影響…集団における他のメンバーの判断や行動の内容に注意が向けられ,より正確な判断,より適切な行動をとろうとする動機に基づいて生じる個人の変化。つまり,何が正しいのかという基準を自分の中にもっていない人は,他の人々の判断や行動を見て,これを正しさ基準として取り入れようとするのである。今回はそのアッシュの実験の追試を行った。
方法
対象者 大学2年生7名 女性
日時 平成20年4月22日 3時限
材料 標準刺激と比較刺激が書かれた用紙10枚(※付録1)
対象者が使う回答用紙(※付録2)とサクラが使う回答用紙(※付録3)の2種類
実験者が使う教示1枚
手続き
1. 5人1組のグループに分け、その中で実験者を一人決めた。
各グループの実験者は担当の先生から実験の説明を受け、材料を受け取り、 各グループで、決められた実験場所に移動し実験を開始した。
2.「これから実験をはじめます。今回の実験では、いくつかの問題を解いてもらいます。実験中は、他の人に話しかけたり、ほかの人の様子をうかがったりしないで下さい。」と教示を出し、被験者達
問題
ものを判断したり態度を形成したり、あるいは行動を決定したりする場合、私たちは他者の言動からさまざまな形で影響を受ける。その結果、自分の行動を他者の言動に合わせる、または近づけることを同調という。これはあまりにも身近な現象であり、この同調行動を学問として純粋に測ることを最初に試みたのがアッシュであるが、アッシュの実験では答えが明らかな判断に対しての社会的影響を研究している(岡本,1995)。しかし日常生活においては、そのように単純な判断状況だけではなく、明瞭な答えのない複雑な判断状況も多く存在する。曖昧な課題に関する同調については、シェリフの自動運動に対する集団状況の効果の研究がある(堀・山本・吉田,1997)。本実験では、複数の個人が同一の対象について確信のもちにくい困難な判断を行お
規範的同調と情報的同調
どうしてこのような実験結果が出てくるのであろうか?社会心理学的な観点からこの実験を解釈すると社会的影響のプロセスとして説明される。社会的影響というのは,他者の行動によって,あるいは単に他者が存在することによって,ある個人の中に変化が生じることを意味する概念である。ドイッチ...