イラクと9.11の関連の曖昧さや国際的な批判にも関わらずG.W.ブッシュ政権をイラク攻撃に踏み込ませたものは、ラセットのモデル以外のところにあると考えられる。その一つが『G.W.ブッシュ政権ため理科の保守勢力』で記されていたG.W.ブッシュ政権の権力構造が作るイデオロギー的な保守主義にあることは容易に推測できる。ブッシュ大統領自身は、必ずしも保守主義イデオロギーの持ち主ではない。政権が保守主義的な政治路線をいく大きな要因は大統領個人ではなく、彼を支える閣僚と各省の高官たちと、議会共和党にある。最も影響力を持つのは、父ブッシュ政権で国防長官を務めた副大統領のチェイニーだろう。彼は多くのレーガン流保守主義者を国務省・国防省に入れ、共和党議会との立法にかかわる連絡・調整に大きな役割を果たしている。また、ブッシュのテキサス州知事時代からの腹心である補佐官のローヴも重要人物である。彼は政権を支持する保守主義団体に対応することが役割であり、宗教右派との結びつきも強い。こうした保守主義勢力が、ブッシュ大統領の野心的な性向、そして宗教的右派・福音派の単純な善悪二元論や、自らの信念を絶対視する傾向と結びつき、政権のイデオロギー的特性を形作っている。こうしてブッシュ政権では、それらのイデオロギーが台頭し、政権内での力関係と対外環境の変化によって大統領の政策課題となり、彼の政策選択肢を構成し、その最終決定を導き出しているといえる。彼をイラク戦争に駆り立てたのは利益よりもイデオロギーであった。9.11以降、彼の世界情勢についての演説には、自由と民主主義をイラクにもたらし中東に広げる、というネオコン流のウィルソン主義がしばしば出てくることからもそれはよく分かる。こうした保守主義路線を突き進むブッシュ政権が支持されたのは、9.11事件による国民の精神的打撃がかなり大きかったこと、さらに第三章で上げられている「思いやりのある保守主義」を掲げることにより、ブッシュ政権が保守主義路線をとりながらその政治基盤を中道に広げるという荒業をやってのけたことに要因があると考える。
現代アメリカ論レポート
『G.W.ブッシュ政権とアメリカの保守勢力』から分析するアメリカのイラク攻撃決定要因
Ⅰ.『G.W.ブッシュ政権とアメリカの保守勢力』 第1章~第5章の要約
第一章では、この30年の共和党のイデオロギー性格の変化を取り上げられている。変容の第一は、支持団体の連合の変化である。89年クリスチャン・コアリションの結成によって、キリスト教保守派の有権者集団が共和党のグラス・ルーツ団体となり、その後党の重要な支持者として存在することになった。さらに94年の「アメリカとの契約」の政策とそれを立法化する「木曜会」の設立を背景として、中小企業団体と共和党のつながり、かつてないほど強固な共和党支援団体の横のつながりも構築された。
共和党の変容の第二は、新保守連合の成立に表れる。ATRが主催する「水曜会」では、保守派のシンクタンク、メディア、中小企業団体などの保守系団体が情報・意見交換をし、強力な「中道右派連合」を形成している。また、小さな政府を支持する「経済成長クラブ」は、共和党穏健派の落選と共和党保守派強化のために多大な資金援助を行っている。この両団体は今...