ヒト癌細胞でのCOX-2の発現増強としては、大腸がん、乳がん、胃がん、食道がん、肺がん、肝細胞がん、膵がん、頭頚部の扁平上皮がんなどが報告されており、NSAIDs服用者における大腸がんや乳がんなどの発症率の有意な低さ(40〜90%)からCOX-2と発がんの機序が注目されている。
シクロオキシゲナーゼ-2 (COX-2)により産生されるプロスタグランジンは、がん細胞に栄養を供給する腫瘍血管の新生を誘導することによって、がん組織の成長促進に関与していることが指摘されている。ヒトの大腸がん、乳がん、前立腺がん、肺がんの生検組織の中にあるがん細胞のみならず、新生した腫瘍血管の細胞においてCOX-2は発現していることが報告されている。
例えば、アスピリンを常用している人は、大腸がんで死亡するリスクが半分近くになることが報告されている。がんに関連しているのはCOX-2の方である。従来のNSAIDsはCOX-1もCOX-2も阻害するため、多くのNSAIDsががん発生の予防だけでなく、がん細胞の増殖や転移を抑制することが報告されている。しかし、COX-1の阻害は生理機能に必要なプロスタグランジンの合成も阻害してしまうため種々の副作用を引き起こす危険がある。そこで近年、COX-1を阻害せずにCOX-2のみを選択的に阻害する薬が開発されている。COX-2の選択的阻害剤であれば副作用が少なく、がん細胞を抑制する強い効果が期待できる。
シクロオキシゲナーゼとがん予防
シクロオキシゲナーゼの合成
プロスタグランジン(Prostaglandins; PGs)はアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase; COX)の働きにより合成される生理活性物質で、炎症の代表的なメディエーターである。PGsはいわゆる「アラキドン酸カスケード」によって産生される。すなわち、細胞外から種々の刺激に反応して生体膜のリン脂質がホスホリパーゼA2 (PLA2)により、まず不飽和脂肪酸のアラキドン酸に変換される。この遊離したアラキドン酸を基質として、脂肪酸酸化酵素であるCOXの作用により、PGG2, PGH2へと変換され、さらに各種細胞に存在する特異的な合成酵素により生理的に重要な4種類のPGs (PGD2, PGE2, PGF2a, PGI2)とトロンボキサン(thromboxane; TX)A2が合成される。
COX-1とCOX-2
アスピリンやインドメタシンのような非ステロイド性抗炎症剤(nonsteroidal antiinflammatory drug, NSAID)は、COX活性を阻害することにより炎症惹起性PG...