第 4 回 Alfred Chandler (チャンドラー) (1918 - )
『スケール アンド スコープ - 産業資本主義のダイナミック』原著 1990 年
安部悦生他訳 1993 年、有斐閣
その 1
「社会科学の名著を読むⅠ」三重大学人文学部 2003 年度特殊講義B 櫻谷勝美
アルフレッド・チャンドラー:アメリカ経営史
<目次>
第Ⅰ部 序論:規模と範囲
第1章 近代産業企業
第2章 規模・範囲・組織能力
第Ⅱ部 競争的経営者資本主義
第3章 アメリカ産業における経営者資本主義の成立条件
第4章 組織能力の創出:垂直統合と寡占競争
第5章 組織能力の拡大:食品および化学製品企業における対外投資と製品多角化
第6章 組織能力の拡大:機械産業における対外投資と製品多角化
第Ⅲ部 イギリス
第7章 イギリス産業における個人資本主義への根強い執着
第8章 組織能力の創造:安定産業における成功と失敗
第9章 組織能力の創造:ダイナミックな産業における成功と失敗
第Ⅳ部 ドイツ:協調的経営者資本主義
第10章 における経営者資本主義の基礎
第11章 の創造:「小産業」
第12章 の創造:「大産業」
第13章 :「小産業」の回復
第14章 「大産業」における回復
結論 産業資本主義のダイナミック
<本書の課題>
Ⅰ 1880 年代から1940 年代の 60 年間、アメリカ、イギリス、ドイツの企業の進化を比較
→「どのようの行動した企業が勝ち組となったか」 を明らかにする。
Ⅱ 企業の創造と成長に関する理論を構成するキーワード(決定的に大事な要素)を明らかにすること
(その1)
< Ⅰ部、Ⅱ部のキーワード>
組織能力、意思決定、業務単位、規模の経済、範囲の経済、最小効率規模、最適規模、三つ又投資、通量
(flows流量)、一番手企業、最高経営者の仕事、
< Ⅰ部、Ⅱ部におけるチャンドラーの主張>
1 製造業大企業が近代産業企業の原型→製造業大企業を本書の主な対象とする
2 19 世紀末第2次産業革命=輸送・通信システムが新しくなった→大量輸送が可能になった→それをコスト低
下と結びつけるには一定量以上の製品量を流通網に安定的に流し続ける必要
1
3 大企業になるための必要条件
① 規模の経済と範囲の経済(後述)を十分利用するため→生産設備に大規模投資
② 新しい生産量に販売量を対応させるため→マーケティング、流通網への投資
③ 仕事の監視・調整・将来計画を立案する経営者採用・訓練→マネジメントへの投資
これを最初に実行した企業がその産業の一番手企業になる
4 競争は、価格競争だけでなく、市場シェア、利益を巡る競争
5 職能的競争(製品、製法、マーケティング、購買、労使関係)
6 戦略的競争(成長市場へ素早く進出、衰退市場から効率的に撤退)
7 これらの競争によって組織能力がつく
2
< 出所> 12 ページ
8 大企業は、ほとんど所有者個人ではなく、経営者によって意思決定される「経営者資本主義」になった
9 大企業は、異なる業務単位(工場、購買、販売、研究部門、財務、輸送)をもつ
10 これらの業務単位はミドルレベル経営者が運営、最高経営者はミドルレベル経営者の業績評価、長期的な企
業戦略を立案して、それに対応した資金・設備・人材の配分を行うことが仕事
11 コストを切り下げる方法
① 規模(scale)の経済=単一製品の生産と流通の規模拡大→1単位当
第 4 回 Alfred Chandler (チャンドラー) (1918 - )
『スケール アンド スコープ - 産業資本主義のダイナミック』原著 1990 年
安部悦生他訳 1993 年、有斐閣
その 1
「社会科学の名著を読むⅠ」三重大学人文学部 2003 年度特殊講義B 櫻谷勝美
アルフレッド・チャンドラー:アメリカ経営史
<目次>
第Ⅰ部 序論:規模と範囲
第1章 近代産業企業
第2章 規模・範囲・組織能力
第Ⅱ部 競争的経営者資本主義
第3章 アメリカ産業における経営者資本主義の成立条件
第4章 組織能力の創出:垂直統合と寡占競争
第5章 組織能力の拡大:食品および化学製品企業における対外投資と製品多角化
第6章 組織能力の拡大:機械産業における対外投資と製品多角化
第Ⅲ部 イギリス
第7章 イギリス産業における個人資本主義への根強い執着
第8章 組織能力の創造:安定産業における成功と失敗
第9章 組織能力の創造:ダイナミックな産業における成功と失敗
第Ⅳ部 ドイツ:協調的経営者資本主義
第10章 における経営者資本主義の基礎
第11章 の創造:「小産業」
第12章 の創造:「大産業」
第13章 :「小産業」の回復
第14章 「大産業」における回復
結論 産業資本主義のダイナミック
<本書の課題>
Ⅰ 1880 年代から1940 年代の 60 年間、アメリカ、イギリス、ドイツの企業の進化を比較
→「どのようの行動した企業が勝ち組となったか」 を明らかにする。
Ⅱ 企業の創造と成長に関する理論を構成するキーワード(決定的に大事な要素)を明らかにすること
(その1)
< Ⅰ部、Ⅱ部のキーワード>
組織能力、意思決定、業務単位、規模の経済、範囲の経済、最小効率規模、最適規模、三つ又投資、通量
(flows流量)、一番手企業、最高経営者の仕事、
< Ⅰ部、Ⅱ部におけるチャンドラーの主張>
1 製造業大企業が近代産業企業の原型→製造業大企業を本書の主な対象とする
2 19 世紀末第2次産業革命=輸送・通信システムが新しくなった→大量輸送が可能になった→それをコスト低
下と結びつけるには一定量以上の製品量を流通網に安定的に流し続ける必要
1
3 大企業になるための必要条件
① 規模の経済と範囲の経済(後述)を十分利用するため→生産設備に大規模投資
② 新しい生産量に販売量を対応させるため→マーケティング、流通網への投資
③ 仕事の監視・調整・将来計画を立案する経営者採用・訓練→マネジメントへの投資
これを最初に実行した企業がその産業の一番手企業になる
4 競争は、価格競争だけでなく、市場シェア、利益を巡る競争
5 職能的競争(製品、製法、マーケティング、購買、労使関係)
6 戦略的競争(成長市場へ素早く進出、衰退市場から効率的に撤退)
7 これらの競争によって組織能力がつく
2
< 出所> 12 ページ
8 大企業は、ほとんど所有者個人ではなく、経営者によって意思決定される「経営者資本主義」になった
9 大企業は、異なる業務単位(工場、購買、販売、研究部門、財務、輸送)をもつ
10 これらの業務単位はミドルレベル経営者が運営、最高経営者はミドルレベル経営者の業績評価、長期的な企
業戦略を立案して、それに対応した資金・設備・人材の配分を行うことが仕事
11 コストを切り下げる方法
① 規模(scale)の経済=単一製品の生産と流通の規模拡大→1単位当たりのコストを下げる
② 範囲(scope)の経済=複数の製品を一業務内で生産・流通→1単位当たりのコストを下げる
③ 取引費用の節約:異なる企業相互の取引には取引費用がかかる→企業内では取引費用が節約できる
④ コンスタントな通量(flows流量)を確保→稼働率を一定以上にしなければならない
3
12 「11」のことから企業合同(=水平統合)の必要性
13 規模の拡大→品質管理と流通量を調整するのが複雑になる
14 範囲の拡大→加工設備の利用複雑、輸送・通信ネットワークの利用
15 「13」 「14」 からミドルレベルの経営者の組織能力が必要になる
16 一般に大規模なプラントは小規模なプラントより1単位当たりのコストが低いはずであるが、そのためには一定
以上の操業率が必要である
17 それぞれのプラントには技術的に最小効率規模がある
18 最小効率規模を下回る操業状態だとコストは急に割高になる
19 それとは別に市場需要から見て最適プラント規模がある→最適プラント規模は需要の変化により増減
20 プラントを建設する「時」と「場所」は、コスト上の優位、予想操業率、市場シェアの期待値、市場規模と市場の
位置、輸送費などの諸要素から決めなければならない(=複雑な方程式)
21 商業中間業者利用の限界
製造業者の原材料購買・製品販売量増加
中間業者は特定の製造業者に対応した特殊な設備や特殊なマーケティングをしない
→製造業者自 身が購買、販売、マーケティング部門を内部化するほうが販売量増加
→1単位当たりコストは低下
22 垂直統合の必要性
① 購買部門(後方統合)
② 販売部門(前方統合)
23 競争でミドルレベルの経営者の能力が高まる
24 競争を通して、 水平統合、垂直統合、遠隔地(海外)進出 、多角化(関連の新製品を作る)
25 物的設備と人的スキルが組織能力である
26 寡占は組織能力開発の結果である
<Ⅰ部、Ⅱ部における著者の主張の特徴>
1 一番手企業になるために必要条件として三つ又投資
2 外注より統合(内部化)する方が有利だと考えている
3 市場で勝者になるためには「組織の成功」が鍵だと考えている
4 そのためには所有者より経営者の重要性を指摘
4
特にミドル経営者を動かす、最高経営者のスキルがもっとも重要である
5 寡占によって競争はなくなるとは考えない、寡占は成功の結果
6 労使関係の分析が少ない
(その2)
第Ⅲ部 イギリス
第 7 章 イギリス産業における個人資本主義への根強い執着
第 8 章 組織能力の創造:安定産業のおける成功と失敗
第 9 章 組織能力の創造:ダイナミックな産業における成功と失敗
<第Ⅲ部の課題>
Ⅰ 最初に資本主義が始まったイギリスの企業が競争力を失ったのはなぜか?
< 第Ⅲ部のキーワード>
組織能力、個人資本主義、創業者家族、同族経営、イギリス市場の狭隘性、第2次産業革命、
ジェントルマン(創業者の息子)とプレーヤー(俸給経営者)、大学の目的、高配当
< Ⅲ部におけるチャンドラーの主張>
1 個人経営に執着=個人資本主義 :
① 企業の統括が個人的
② 経営の目的が所有者個人の安定した収入確保
2 創業者家族が企業を管理し続けた = 企業管理は階層組織の力を借りずに同族が行う
3 上級職や取締役への抜擢 : 所有者との個人的結びつき + 経営能力
4 イギリスの産業資本家は自ら創業したか相続したかであり、俸給経営者に経営を委任すれば、支配権喪失に
つながることを恐れた。
彼は企業を相続人に譲る家産とみなしていた
5 イギリスの企業家は三つ又投資を実行しなかった : 生産投資はしたが流通投資はそれよりはるかに少なく、
(商業仲介業者に依存)、マネジメントに対する投資はさらに少なかった
6 1870年代の輸送・通信革命(=第2次産業革命 : 鉄道、電信、蒸気船、海底ケーブル)以前に工業化した
唯一の国 = それ以前の経済は各地方で小規模な企業が多数存在する経済
7 国土はアメリカの2.6%、鉄道の距離が短い→生産・流通に対する鉄道の影響はアメリカより小さい→流通量
を一定以上にする必要性は小さい=少ない量を輸送する不効率性は小さい
8 イギリスで競争力を持った企業は、小売商の棚に置かれるブランドつき包装製品(食品、ウィスキービール、
紙巻きタバコ、チョコレート、ビスケット、缶詰、菓子類、化粧品、石鹸、衣料品など)
9 これらの製品は最小効率規模が小さい=最適工場規模が小さい→個人経営でも可能
5
10 アメリカのように上級の俸給経営者を雇い、彼を取締役にすることは珍しかった。
11 量産標準型軽機械、有機化学、電気化学、金属では三つ又投資が必要だったがそれをせずに、アメリカとド
イツ企業にイギリス市場で破れた。ロンドンの地下鉄システムはアメリカのGEによって装備された
12 イギリスには発明家も、資金も、熟練労働者も存在したがそれが投資に結びつかなかった。
13 アメリカの経営者の目から見てイギリスに足りないものは、企業体制とマネジメント
14 イギリスの会社はジェントルマン(創業者の息子)とプレーヤー(俸給経営者)からなるが、プレーヤーの第一
の希望はジェントルマンになること。 プレーヤーはジェントルマンの同族か親しい人が選ばれる。 →プレ
ーヤーの権限は小さかった
15 ジェントルマンの教育はオックスフォードとケンブリッジ。実業教育よりも政治家、行政官の養成。両大学では
工学教育は、学生の人気がなかった
16 企業合併はあったが、合併は通常持株会社方式で行われ、旧会社の所有者が新会社の取締役になった。
→旧工場温存→合併が近代的新設備に繋がることはめったになかった。
17 イギリスの企業は価格競争によって相手を圧倒するよりも、協調を好...