『3歳児神話から母親と乳幼児との関わりを考える』
2006年4月に出産し、子どもが生後4ヶ月になる前に仕事に復帰した私にとって、保育園へ0歳の子どもを預けるのは、やはりどこか後ろめたさのようなものを持っていた。2児の母である友人からも早すぎるのではないかと言われたこともあった。しかし、地域社会がほぼ崩壊した現代において、乳幼児を持つ親との近隣づきあいをほとんど望めない私たち家族にとって保育園との出会いは、多くの人との関わりが持てる場であり、自分たちの子ども以外の子どもたちをも一緒に育てていく、また自分たちも育てられる相互関係を見出せる場であると感じるようになった。逆に、小さいときから保育園に預けて仕事をすることに対して否定的な友人たちをみてみると、まだ2歳の子どもを英語教室に通わせたり、日常的に頭やお尻を強くたたいたり、テレビやビデオに子守をさせていたりという状況があり、いささか疑問を持つことも多かった。そこで今回、育児に蔓延するさまざまな言説のなかで、「3歳児神話」に着目し、母親と乳幼児との関わりについて考えてみたい。
1.3歳児神話についての文献考察
(1)3歳児神話とは
3歳児神話とは、「3歳まではお母さんの手で」という言説であり、子どもが幼いうちは母親が家庭で育てないと子どもの将来に悪影響を及ぼすという考えである。しかしながら、ここ十数年の間に「母親の就労の有無と子どもの発達とは無関係」という研究結果が日本やアメリカで相次いで報告され、また厚生労働省も1998年の厚生白書で「母親と子どもの密着はむしろ弊害を生んでいる指摘も多い」と発表している。
(2)3歳児神話に対する考え方
一般に、権威ある小児科医や高名な学者であればあるほど、3歳児神話を説く。小林(2000)はその代表格で、「幼児期や学童期の子どもたちにおこっている問題を考えれば、母親になったらせめて1~2年間は可能な限り赤ちゃんのそばについて育ててほしい、母乳を与えて育ててほしい。理想的な育児をするためには、産後は1~3年間、子育てに専念できるように、あるいは子育てと生きがいある仕事を両立させるために、有給休暇がとれるような社会体制を確立すること」と述べている。
なぜ「3歳」なのか。田中(2004)は1950年代のはじめに英国の学者ボウルビィが発表した、施設育児の子どもたちの発育不全に関する研究がきっかけだという。さらに1990年代の半ば、アメリカで発表された子どもの言語能力発達に関するB・ハートとT・リスレーの研究――3歳までにつくられた言語能力の差は、学校教育では変化しないということ(筆者解釈)など、「3歳」が強調されることは多い。また、凶悪な少年犯罪が起こるたびにマスコミが加害者の幼少期の育て方を取り上げ、「母親がかまってあげなかったからだ」とか「愛情不足によるもの」などと安易に報道することも要因ではないだろうか。
ベストセラー「子育てハッピーアドバイス」の著者の明橋(2006)は3歳児神話の内容をクイズ形式で次のように解説する。
クイズ 『三つ子の魂百まで』の本当の意味とは?
① 3歳までにしっかりしつけをしておかないと、大人になってもわがままな人になる。
② 3歳までは母親が家にいて育児に専念すべき。そのように育てられた子どもは大人になっても健康な心で生きていくことができる。
③ 3歳までは十分安心できる環境で子どもは育てられるべき。そのように育てられた子どもは大人になっても健康な心で生きていくことができる。
正解は③。ちなみに①~③にはどのような問題があるのか
『3歳児神話から母親と乳幼児との関わりを考える』
2006年4月に出産し、子どもが生後4ヶ月になる前に仕事に復帰した私にとって、保育園へ0歳の子どもを預けるのは、やはりどこか後ろめたさのようなものを持っていた。2児の母である友人からも早すぎるのではないかと言われたこともあった。しかし、地域社会がほぼ崩壊した現代において、乳幼児を持つ親との近隣づきあいをほとんど望めない私たち家族にとって保育園との出会いは、多くの人との関わりが持てる場であり、自分たちの子ども以外の子どもたちをも一緒に育てていく、また自分たちも育てられる相互関係を見出せる場であると感じるようになった。逆に、小さいときから保育園に預けて仕事をすることに対して否定的な友人たちをみてみると、まだ2歳の子どもを英語教室に通わせたり、日常的に頭やお尻を強くたたいたり、テレビやビデオに子守をさせていたりという状況があり、いささか疑問を持つことも多かった。そこで今回、育児に蔓延するさまざまな言説のなかで、「3歳児神話」に着目し、母親と乳幼児との関わりについて考えてみたい。
1.3歳児神話についての文献考察
(1)3歳児神話とは
3歳...